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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邪願 3
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「だいじょうぶ? 平気?」
「…………」
「だいじょうぶ? 平気?」
「…………」
「だいじょうぶ? 平気?」
「すっご〜い! 科白はおなじなのに全然ちがうわ!」

 彩菜は京子の前で『親を亡くした恋人を心配したとき』『携帯を家に忘れてしまった友達を心配したとき』『ころんだ子どもを見たとき』の三種のシチュエーションに合わせて異なる感情を込めて、おなじセリフで表現した。
 代マルの声優タレント科では感情解放という授業があり、演技のためにみずからの感情を取り出す訓練を徹底的におこなう。声のみで演技する声優にとってどんな小さな感情も演技の重要な要素となる。
 
「じゃあ次は幼馴染が照れ隠しで怒ってるようなツンデレ科白を言って」
「はい、では――バカバカバカバカ! スカポンタン! アホ犬! 鈍感! あっ、あたしがあんたのことを、ど、どんなに気にかけてたと思ってんのよ! せ、責任取りなさいよね!」
「萌えるーっ!」

(なにをやっているんだか……)

 別室で作業している秋芳は彩菜と京子のやり取りに妙な気恥ずかしさを感じていた。
バラエティ番組で大御所声優が木っ端芸人におもちゃ・珍獣あつかいされているのを見ると、関係ないこちらが恥ずかしくなる。傍ら痛い、あの感じだ。
 秋芳はいま聖蓮寺内にある施薬室で川平に処方する霊薬を作るため、薬棚を探っていた。
 俗塵にまみれた呪術寺とあなどれない、なかなか本格的な品ぞろえだ。壁面を埋め尽くす書棚のように大きく、引き出しのたくさんある紫檀製の漢方薬棚には薬草類のほかにも熊の(くまのい)やイモリの黒焼きなどの動物性薬物。琥珀や雲母といった鉱物性の薬の名前がいくつも見受けられた。
 霊薬作り、錬丹術は陰陽医の領分で陰陽塾のカリキュラムには三年からの選択科目にあるが、秋芳はもともと疾病退散を主とする呪禁師なので錬丹の術はすでに習得済みだ。

(感情を込めて、ねぇ。どうも最近のアニメ声優のアニメアニメした作り萌え声は好かん。好かんといえば最近の邦画はなんだあれ、やたらと泣き叫んだり感情も情景もすべて言葉で説明したりして幼稚極まりない――)

 演劇の世界には『感情は後払い』という言葉がる。下手な役者は興奮した芝居ばかりやってしまいがちだが、感情というのはいつも後ろになくてはいけない。怒りたくても実際には怒らずに我慢する。泣きたいところをぐっとこらえる。言葉を選びながら、感情を抑える。必ず裏に感情があり、口にする言葉がただしいとは限らない。

「それじゃあねぇ……次は吸血鬼もどきのお兄ちゃんに『歯を磨かれて五分間耐えることができたら勝ち』勝負を挑まれた妹やって」
「はい、では――ンハァッ!? ハンっ! んっ、んんっ、んはぁっん……、はぁはぁはぁ、あっ、あぁんっ、んんっ――て、なにエロい
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