辺境異聞 10
[3/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
体から力が抜け落ち、大地に沈む。
竜が口を開いた。
食らいつくのか、それとも灼熱の息吹を吐くのか。
「《昏き褥に横たわり・永久の眠りにつけ・滅》」
竜語でも、ルーン言語でもない。竜の口から神聖語が、暗黒神に奇跡を願う暗黒魔術が放たれた。
ジャイアント・センティピードは大きく痙攣すると、動かなくなった。
死んだのだ。
ドラゴンが使ったのは暗黒魔術【デス・スペル】。
対象の命を一瞬にして奪う死の呪文。
闇竜が暗黒神と関係があり、闇の魔術を行使するというセリカの説明は本当だったようだ。
おのれの屠った大ムカデに一瞥もくれず、悠然と立ち去ろうとする。
背後に見える大穴が竜の住処なのだろう。
「竜よ」
その背にむかって秋芳が声をかける。
秋芳に竜語の心得はない。だが翻訳の魔術を使ったので、相手には竜語で聞こえている。
闇竜が翼をはためかせ、秋芳のそばに降り立った。
その目は剣呑な輝きを帯びている。
「地を這う小さき者が、我に呼びかけるとは、不遜!」
竜の言葉も翻訳され、人の言葉として秋芳の耳にとどく。
竜が息をするたびに硫黄の臭いが鼻をついた。喉が大きく膨らんでいる。
炎か。
死の言葉か。
いずれが放たれても無事ではいられない。
「そうだ。俺はおまえを呼んだ」
「なぜ、我を呼んだのか」
「賀茂秋芳が、黒き竜に問う。なぜ人里を襲い、奪うのか」
「獲物を狩るのに理由がいるか」
「腹が減っているのか」
「いかにも」
「ならなぜそのムカデを食べない」
「毒ある地虫をだれが口にするか!」
「毒はおまえのような竜族をも害するのか」
「笑止。毒ごときで我が身は害せぬ。ただ、不味いのよ」
「不味いか」
「不味い」
「不味いから食べないのか」
「不味いから喰わぬ」
「腹がくちくなれば人里を襲わないか」
「腹が満たされているうちは」
「腹が減っても人里を襲わないで欲しい」
「できぬ!」
「ただとは言わない」
「なんだと」
「条件を飲んでくれたら、おまえに与えられるものがある。貢ぎ物だ」
「それは、なんだ」
「賞味」
「ショウミ!?」
「おまえに美味い『料理』を食べさせてやる。その味に免じて俺の頼みを聞いて欲しい」
「料理だと!」
竜がふたたび吠えた。
背中に生えた闇色の体毛が大きく逆立ち、鼻の穴からは黄色がかった煙のようなものが立ち上がった。
「小さき者の小細工を我に供じるというのか! 不遜だぞ!」
竜の怒りは今にも爆発しそうだった。
「人の料理を食べたことはないのか」
「ない!」
「料理をすれば、そこのムカデが美味くなる」
「なんだと?」
竜が首を伸ばしてきた。その首は長く、秋芳のす
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ