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大洗女子 第64回全国大会に出場せず
第5話 秘匿通話
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る」

 理事長からはあいかわらず大洗動乱の時の頼りない風情しかうかがえない。
 しかし、電話を渡す一瞬だけ、生真面目そうな表情を見せた。
 相手がそれなりの立場ではないかという優花里の予想を、その表情は肯定していた。

「私は、いまからかかってくる電話については一切関知しない。
 君はこの部屋に来ていないし、私も会っていない。
 だから君も、通話の内容については他言無用だ。わかったかね」

 なんとも意味深なやりとりだ。
 これから何が起こるのだろう。優花里は不安で一杯になった。
 その時ふいに優花里の手の中の携帯が震え、鈴虫の鳴き声をデジタル化した着信音が鳴った。
 優花里はおそるおそる、旧式な携帯の受話ボタンを押し、電話に出た。

『……秋山優花里、さんね?』
 声の主は女性のようだが、テレビでよく聞く変調装置越しの声のようで、1オクターブ下げたように聞こえる。声紋もデジタル処理で消しているらしく、平板に聞こえた。
 優花里は恐ろしくなったが、乗りかかった船だ。
 震える声で「はい、そうですが。どなたですか」と聞き返す。

『それはどうでもいいことだ。あなたが知る必要はない。
 手短に要件だけ言うわ。
 大洗女子では、次年度の戦車道活動予算が組めないのでは?』

 優花里は不気味に思った。なぜ電話の主がそのことを知っているのだ。

『フフフ、怖がるなと言う方が無理だろうな。
 安心しなさい。私は今年の全国大会に大洗女子が出ないと困る人間なんだ。
 単刀直入に言おう。本年度の経費と同額の現金を大洗町に「ふるさと納税」として振り込んでやろう。むろん使途は「大洗女子学園戦車道への補助金」としてな。
 むろん出所のはっきりした金になる。
 納税者が誰かは町の守秘義務ということにさせてもらうがな。
 ――ただし、援助に当たっては条件がある』
 
 
 
 
 

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