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マルクス通りにはならない
第五章

[8]前話
「駅も大きいしこの公園も人が多いから」
「ああして訴えかけたいんだろう」
「そうよね、けれど」
「ああして言って何の意味があるんだ」
 住職はデモ隊の面々を見て顔を顰めさせた。
「どうせあの連中の実態は過激派だよ」
「赤軍派とか中核派とか」
「そうだよ、共産主義がどうとか」
「言ってる人達なのね」
「まだな、ソ連なんてとっくの昔に崩壊して」
 住職は学生時代に前川が自分やクラスメイト達にいつも言っていたことをここで思い出した。いい思い出ではないがそれでもだった。
「共産主義なんて殆ど誰も信じていないのにな」
「それでもよね」
「まだ生き残っているんだ」
「それでああしてなのね」
「騒いでいるんだよ、平日の昼間からいい歳した連中が」
 見れば若い人間は一人もいない、公園を行きかう大学生や若いサラリーマン達は彼等を五月蠅いなという目で見て通り過ぎている。
「ああして」
「そうよね」
「主張はその都度違っていても言っている人は同じじゃないのか?」
「そういえば駅前にいた人達ばかりかしら」
「化石だよ」
 住職は彼等を軽蔑の目で見ながら言い捨てた。
「もう」
「共産主義もあの人達も」
「そうさ・・・・・・んっ?」
 住職はここで見た、その彼等の中にだ。
 前川がいた、もう七十過ぎの筈でその年齢の顔と外見になっていた。だが一目見てわかった。
 赤い鉢巻きを着けていて赤い旗を持って基地だの原発だの言っている、そして安保反対だの格差社会だのもだ。他には天皇制とかも共謀罪も言っている。
 その彼を見てだ、住職はその声と顔の軽蔑の色を極限まで高めて呟いた。
「変わらないな、本当に」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
 妻には一転して穏やかな声で言った。
「この世で一番下らない人達だと思っただけだよ」
「そうなの」
「行こう、あんな人達見ていても何にもならない」
 それこそ何も得られないというのだ。
「共産主義は終わった、マルクスも」
「そうよね」
「あの人達がどう思っていても」
「それにうちはお寺だし」
「お寺の仕事をしよう」
「そうしましょう、次の檀家さんのところに行って」
 そうしてというのだ。
「四十九日の法要をしましょう」
「そうしよう」
 こう話してだった、住職はその場を後にした。妻と共に。
 前川はその彼等に気付かず叫び続けていた、だがその彼を見ている市井の者は誰もいなかった。彼の周りにいる者達も。


マルクス通りにはならない   完


                  2017・8・21
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