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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 8
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ないんだ……。水も食料もないこんな状況で休息すれば、眠るように死にいざなわれることだろう」
「水も食料も、それから薬も。ほんとうに、これっぽっちもないのか? ひとつまみ、ひとしずく程度もか?」

 指先で小さなものをつかむ仕草をする。

「そのくらいなら……」
「ならここにもってきてくれ」

 突然現われて貴重な食料を持ってこいとは、なにを考えているのか――。
 見ず知らずの者からの、そのような無茶な要求に応じる義務などヨセフにはない。
 しかしこの求めを拒否してはいけない。そんな予感におそわれたヨセフは仲間たちに頼んで残り少ない水と食料をかき集めてさし出した。
 カラス麦やライ麦、(あわ)(ひえ)、蕎麦といった雑穀まじりの石のように硬い黒パンに、これまた石のように硬いチーズと干し肉。革袋の中には水で薄められたワインやエールが入っている。

「さぁ、これですべてだ」
「保存食とはいえ貧しいものだなぁ、そういえばこの時代のヨーロッパにはまだジャガイモもトウモロコシもなかったんだよな」

 トマトやジャガイモ、トウモロコシといった南米原産の野菜がヨーロッパに持ち込まれるのは一五世紀の終わりあたりからだ。
 ジャガイモもトモトは当初は有毒とされ、ヨーロッパの人々には嫌悪されて、悪魔の食べ物とまで呼ばれていた。ジャガイモなど「植物は種子から成長するが、ジャガイモは根から成長する。これは神が定めた雌雄による生殖ではないので性的に不純で卑猥である」という理由で宗教裁判にかけられて火あぶりにされた例がある。
 だがプロイセン王フリードリヒ二世は寒冷で荒れた土地でも育つジャガイモに目をつけ、栽培を奨励し、みずから率先して口にした。さらにジャガイモ畑をわざわざ兵士に警備させることで民衆に貴重な食べ物≠ニいう認識をあたえ、それまでの下賤な物というイメージの払拭にも努めた。
 雑多な食料品のなかから小さな袋を取り上げて中身を見る。

「麦種子か」
「そうだ、貴重な小麦の種もみだ」

 ヨーロッパ大陸は土地がやせているので小麦を増産したくとも栽培が可能な地域は限られており、この時代の小麦は貴重だ。小麦だけで作られた白いパンは王侯貴族や豪商などの限られた人の食べ物で、庶民はカラス麦などの雑穀をミルクで煮込んだオートミールなどを口にするのがやっとだった。
 日本も近代に入るまで白米は貴重な食べ物で、一般庶民の間では純粋にお米だけを食べられる人は少なく、麦や粟、稗などの雑穀類を米に混ぜて食べていたが、感覚としてはそれに近い。
 余談だが日本にむかしからある芋は里芋と山芋で、薩摩芋とジャガイモは江戸時代のはじめ頃に伝わったとされる。ジャガイモは江戸時代の初期では薩摩芋ほど食用にはされず、洋食の普及にともない明治時代から栽培が一般化
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