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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲乃夢 4
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 街の喧騒が風に流れて聞こえてくる。芸姑の奏でる音楽や人々の笑い声、まこと平和で豊かなにぎわいで、ここが戦場だということを忘れてしまいそうになる。
 そう、ここは戦場。崖山に追い詰めた南宋の残党を殲滅せんと元の大軍がまわりを包囲しているさいちゅうだ。
 南宋軍はその数二十五万といわれるが、そのほとんどは市井の民や文官といった非戦闘員で、戦える兵士の数は一万に満たない。
 補給を断たれ糧食を得られなくなった南宋軍は衰弱し、元軍は楽に勝てるはずだった。
 謎の神仙が加勢に現れるまでは。
 元軍の奇襲を退け、風雨を呼んで大衆の渇きを癒し、わずか数日で崖山の険しい山を削って仏顔のような造形の要塞都市を築いた。
 ただ人のなせる業ではない。

「くそっ、あいつら真っ昼間から楽しそうにしやがって。こんないくさ、やってられるか」

 元軍の前線に立つ若い兵士がいまいましそうに吐き捨てた。周りの兵士たちの中にその態度を注意する者はいない。彼らもまた同じ気持ちだったからだ。





「――天若不愛酒――酒星不在天――地若不愛酒――地應無酒泉――」

 せまい店内は歌舞音曲が絶えず流れ、人がごった返していた。
 秋芳と京子は店の主人に銀子をはずみ二階をまるごと貸し切り昼食をとることにした。この三日間、宋のために尽くし街を完成させたのだ、このくらいの贅沢はゆるされるだろう。仏顔都市と化した崖山の登頂部には皇帝が、両目部分には文武百官とその家族たちが、鼻と港もある口の部分には庶民たちが居をかまえ、生活していた。
 いま秋芳たちがいるのは左鼻孔側の雑居街に作られた酒楼だ。
 給仕が注文をとりにくる。

「本日は酒飯博士(シェフ)がそろっておりますので、良い料理が出せますが、お飲み物はなににいたしましょう」
「銀瓶花彫酒をもらおうか」
「おお、お客さんはなかなか通でいらっしゃる。とっておきのがありますよ。料理のほうはいかがいたしましょう」

 ここは三方を海にかこまれた崖山。海の幸が美味しかろう。

「じゃあ豆瓣魚(トウバンユイ)と蟹醸橙(シェニァンチェン)を、あと酒の肴に羊肚絲(ヤントゥスー)があればたのむ」

 豆瓣魚とはニンニクやネギ、豆板醤たっぷりのスープの中で白身魚を煮込んだもので、蟹醸橙はカニの肉をユズの皮でつつんで蒸したもの、羊肚絲は羊の胃袋を細切れにして炒めたものだ。

「はい、ご用意できます」

 さらに白飯と清湯(チンタン)、食後の甘点心をたのんだ。
 酒も料理もすぐにはこばれてくる。卓上には大皿小皿、鉢や茶碗がところせましとならべられ、湯気をあげる。
 秋芳は酒杯を、京子は箸を手に取って舌鼓を鳴らす。

「見た目はザ・中華料理! て感じだけど、あっさりとした味つけで和食みたい」

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