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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲乃夢 4
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。現代武術ではルール違反とされる急所への攻撃さえ注意すれば、存外恐れるようなものではなかった。
 秋芳の体術をもってすれば鄭彪の猛烈な攻撃は、さばききれないものではない。

(問題はこいつではなく包道乙だ)

 包道乙は拱手の姿勢のままじっとこちらを見つめている。
 その両手は袖に隠れて見えない。つまりどのような手印を結んでいるのか、わからないということだ。
 ひしひしと殺気が伝わってくる。
そしてあふれる霊力の強さは並の呪術者の比ではない。

(前にもみ手をして下手に出てくるふりをしつつ、印を素早く結ぼうとしたせこい術者とやり合ったことがあったが、こいつはどのような印すら見せていない。やっかいだな)

 こちらがすきを見せれば未知の呪が飛んでくる可能性が高い。たとえすきを見せなくても弟子である鄭彪が劣勢になれば手を出してくるかも知れない。
 肉弾戦に長けた前衛と強力な呪術を使う後衛ふたりを同時に相手にするのは勝ち目が薄い。

(ここは退散するか)

 三十六計逃げるにしかず。
 西暦五世紀の中国、南北朝の時代。宋という国があった。この宋はいま秋芳たちが救おうとしている宋とはまた別の国だ。
 その宋に檀道済(たんどうせい)という名将がいた。彼は北方の国境を守備し、強大な北魏軍と戦い続けた。彼のたいそうな戦上手で、その戦術は巧妙をきわめ、北魏軍を幾度も撃退した。ときには敵の前から逃げ回って、相手の戦力を削ぐという作戦をもちいた。そのためどうしても檀道済に勝てない北魏軍は「逃げ上手の檀道済。三十六策中、逃げるのが上策なり」などと負け惜しみを言ったという。
 しかし時の宋の皇帝は檀道済の能力と名声を恐れ、妬み。無実の罪を着せて死刑にしてしまった。彼の死を知った北魏軍は狂喜して総攻撃をしかけ、あっという間に都に迫り。城外を埋め尽くす敵軍を見た皇帝は「檀道済はどこにおる」と惑乱したとも「檀道済が生きていればこんなことにはならなかったのに」と悔やんだとも伝わる。
 逃げることは恥ではない。時には撤退することも大事なのだ。
 最近の日本には先の負け戦の反省もせずにネット上で気炎を吐く輩が多く、そういう連中は「日中戦争のときの中国軍は逃げてばかりの腰抜けだった」というような発言をする。たしかに日中戦争における戦闘ではたいていの場合、日本軍が攻めると中国軍が撤退し敗走したが、相手を自国領深くに誘い込み、補給線がのびきったところで散発的なゲリラ戦をしかけて叩くというのは立派な戦術だ。
 あとからいくらでも取り返しがつくのに、目先の名誉や安っぽい矜持のために自決や玉砕を強いるのは愚の骨頂であり、後退すべきときに後退を決断できる能力も名将の資格なのだ。

(ふたり同時に叩き、その隙を突いて離脱する!)

 襲いくる鄭彪の乱打をさ
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