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月夜の下でキミと
スカイナイトドリーマー第1話

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スカイナイトドリーマーという面白い商品が世界的に大ヒットして早3年が経つ。
一般の消費者には、ちょっと高すぎる品物なのだが、私はコツコツと深夜のバイトで貯めた一切をそこへ投入した。

冴えないOLが、手にするような物ではなかったかもしれない。

どんな品物かというと、みなさんドローンはご存じだろうか?カメラを搭載し、空中をあらゆる方向に自在に飛び回り、そこから見える映像を記録できるアイテム。

その映像を3Dで映し出す専用のメガネに連動させて、自宅にいながら空中散歩を楽しむことができるのだ。

スカイナイトドリーマー用の最小のドローンが開発され、制限はあるものの自由に飛び回れる公共の区間が少しずつ増えて来ている。
使用可能時間も夜間限定なので、″夜空の夢人″という名前なのである。



ここで簡単な自己紹介を。

依子(よりこ)31歳。独身。地方都市の小さな2階建てのアパートで暮らしている。
仕事から帰宅しお風呂に入り、食事を済ませた後で、夜な夜な、このスカイナイトドリーマーを楽しむことにしている。

短大を卒業してから就職を機にこの街に住み着き、実家には1度も顔を出していない。
地元の友人とは疎遠になり、この街でも特別な友情を育む気持ちにはなれなかった。職場でも然り。


寂しさや孤独をまったく感じないわけではないけれど、悲劇のヒロインになるモチベーションもなければ、馴れ合う気力もなかった。ただ、淡々と暮らすことだけで精一杯だった。


″恋人を作る″という年相応の女性が行き着く発想にもまったく魅力を感じなかった。
いわゆる、″コミュ障″といわれるタイプの人間なのかもしれない。



使い始めのころは、許可の降りているほぼすべての区間を飛び歩いた。
やはり圧巻なのは、東京都心の夜景だ。

スカイツリーのてっぺんから360度の地上を見渡したときは、感動で息が止まるほどだった。
ありきたりな表現だけど、宝石箱をひっくり返したような輝く街を見下ろすと、日常のさまざまな出来事が小さく薄くなっていって、束の間の感動に身を浸すことができた。
あらゆる疲れが、夜風に吹き飛ばされてなくなった。

依子は毎晩、スカイナイトドリーマーを使い
渋谷の巨大な広告塔の上で、あるいは新宿都庁ビルのてっぺんで、あたたかい夜風に包まれる感覚に浸りながら、小さく一筋の涙を流して眠りについた。
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