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Darkness spirits Online
第22話 永遠の十字架
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オレ達が許したって、いいんだよ」
「……くッ……ぅ……!」

 嗚咽が、漏れる。格好悪いったら、ない。そうと知りながら、アレクサンダーは止めどなく溢れる感情を、堪え切ることはできなかった。
 そんな彼を見上げ、Rは安堵するように裾から滑り落ちていく。全身の力が抜けたように、その身体はぐったりとアスファルトの上に転がっていった。

「……うん。……これでいいよな、ソフィア」

 彼の眼が移す夜空。その向こうに繋がっているであろう、遠方の国で眠り続ける少女に――Rは、人知れず告げた。
 もう誰も、悪夢に振り回されることはないのだと。もう、皆を苦しめた怖い夢は、本当に終わったのだと。

 ◇

 ――同時刻。すでに誕生日パーティは、酣の時が近づいていた。相も変わらず、優璃や利佐子の周りに集まり続けている御曹司達も、そろそろ引き際かと時計を意識し始めている。

「……蟻田君。そろそろ宴も酣といったところだが……来賓の方々をお送りする準備に、不備はないな?」
「はい、もちろんです会長。リムジンはすでに控えておりますし、警備も万全。優璃お嬢様の記念すべき日は、円満に終わりますとも」

 そんな彼らを一瞥する、礼服に身を包んだ2人の男達。長身と筋骨逞しい肉体を持つ初老の男性と、スマートな体躯を持った壮年の男性である彼らは、この伊犂江グループの中心人物である。
 初老の男性こと伊犂江芯(いりえしん)は、側近である壮年の男性こと蟻田椴(ありただん)と共に、パーティ終了後の段取りを確認していた。

「利佐子君には、優璃も大変世話になっている。彼女の誕生日も、私から盛大に祝わせてもらおう」
「恐縮です、会長。あなた様のお役に立てるということだけでも、身に余る光栄なのですから……」
「そう言うな。……私も、優璃を守ってくれる人々には感謝したいのだよ」
「ご安心くださいませ、会長。我々蟻田商事は、今後とも誠心誠意を込めて、お嬢様を御守りします」

 遠い眼差しで愛娘を見つめる芯。そんな彼を見上げながら、椴は自信に溢れた声色で優璃の安全を保証していた。
 ――あのギルフォード事件が発生した直後、伊犂江グループの中でも最も迅速に対応を始めていた実績が、その自信に繋がっているようだ。

 一方。自分が最も信頼する部下の言葉に、頷きながらも――芯はどことなく「心ここに在らず」といった様子で、優璃を見つめ続けていた。

(私が背負い、墓まで持ち去ろうとしている「罪」。その報いを受ける日も近いだろう、とは思っていたが……どうやら、それは今日ではなかったようだな)

 ――このグループをさらに成長させ、愛する家族や仲間達を幸せにするため。芯は2年前、多大な利益に繋がると見込み、アドルフ・ギルフォードに開発費を投資していた。
 
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