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目の前で
第四章

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「こうした時こそでしょ」
「ええ、負けるのね」
「そうしたチームじゃない」
 ここぞという時こそ負けるチームだというのだ。
「信じられない負け方が常だし」
「それでなのね」
「まあ大体ね」
「予想してたの」
「それで用意していたけれど」
「予想通りになったわね」
「お兄ちゃん帰ったら騒ぐけれどね」
 このことは最早織り込み済みだった。
「あんたまた相手するでしょ」
「いつものことだしね」
「広島が負けても同じだしね」
 この時は千佳が騒ぐのだ、勝ち誇る寿に対して。
「するわよ」
「全く、あんた達は本当に野球好きね」
「カープが好きなの」
 そちらがと返す千佳だった。
「私はね」
「それでお兄ちゃんは阪神なのね」
「そうよ、じゃあお兄ちゃんが帰ってきたら」
「御飯よ」
「わかったわ」 
 千佳はここまで話してだ、そしてだった。
 兄が帰って来て夕食になるまで自室に戻ってブログで喜びを画像まで付けて更新した。そして更新が終わるとだ。
 例の兄が大騒ぎで帰って来てだ、即座に千佳の部屋まで来て叫んで来た。
「クライマックスで勝つからな!」
「楽しみにしてるわ」
 熱い兄にクールに返す妻だった。
「その時を」
「言ったな」
「言ったわよ、また退けてやるから」
 千佳は兄に胸を張って言い返した。
「楽しみにしていなさい」
「勝つのは阪神だからな」
「カープに決まってるでしょ」
 二人で言い合う兄妹だった、しかしそのクライマックスでだ。
 阪神は横浜に負けた、それで寿は雨の甲子園から自転車で帰って来てずぶ濡れになった状態で千佳に言った。
「また来年だ」
「そうなの」
「ああ、そして今からな」
「お風呂入る?入れておいたわよ」
「悪いな」
「気にしないで、じゃあまたね」
「来年だ」
 こう言って今は風呂に入る寿だった、彼の今シーズンは終わったがもうその目は来シーズンに向いていた。


目の前で   完


                 2017・10・23
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