第21話『奪われた流星の丘アルサス〜忍び寄る魔王の時代』【Aパート 】
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ネルが奴隷の狩り場として選んだアニエスも、マスハス卿の治めるオードも、オージェ子爵の治めるテリトアールも、このような光景になっているのか?そう思うと、沸き上がる怒りのあまり、凱の拳が自然と固くなる。
それに構わず、隣に立つフィーネはガイに問いかける。
「まずはどこへ行く?いきなりセレスタへ?」
しばし沈黙の中、凱は行き先を告げた。
「――――ユナヴィール」
ここアルサスは、4つの村部区画にて構成されている。ユナヴィールの村もその一つだ。
遠くからでは、外観上の『惨状』しかわからない。実際に足を踏み入れて、先に『生存者』がいるか確かめなくては。
「……行こうティッタ」
最悪の場合、ユナヴィールへ足を踏み入れた瞬間、戦闘になる。
どうして力無きティッタが、凱とフィグネリア――ザイアンと同行しているのか。
時は少しさかのぼる。
【銀の流星軍・駐屯地・司令官幕舎】
「ティッタ。君は自分が何を言っているのか、分かっているのか?」
穏やかで包容力の深い凱でさえ、彼女の申し出に眉を潜めた。その声色は若干だけ、非難じみている。
「俺達は最悪の場合、アルサスで戦闘になる。万が一、君に何かあれば、ティグルやバートランさん達に顔向けができなくなる」
戦いという言葉に一瞬、ティッタの表情が強張る。
一介の侍女に過ぎない自分には、到底解決できないし、凱達の力にさえなれない大きな問題なのだ。
「……過酷な運命はいつもアルサスから奪う。しかし、今回ばかりは止めねばならん」
沈痛な面持ちで告げたのはマスハスだった。
度重なる戦場へ常にティグルの背をついていき、いつ倒れるか分からぬ背中を、ずっと支えてきた。
主の疲れた身体を優しく労る食事。安らぐ環境たる寝床を整え、一日を告げる起床行動の数々を、ティッタは『使命』として尽くしてきた。
その健気な姿勢こそが、銀の流星達に明星を与えていたのだ。
「ティグルを失い、ティッタまで失ったら……わしはウルスに顔向けができぬ。ティッタよ……どうか考えなおしてくれぬか?」
凱がティグルに顔向けができない様に、マスハスもまた亡き友人に顔向けができないのだと。彼の声色に悲痛が滲む。
そして、マスハスの言葉に同意するかのように、ルーリック――リムアリーシャまでティッタの瞳を覗き込む。
「確かに、あたしは今まで剣も握った事はありませんし、戦いになれば、ガイさんとフィグネリアさんの足手まといになります」
直接の命のやり取りに関しては、ティッタの力は皆無となる。己の無力さを噛みしめ、『想い』に訴える。それが本当に自分の強さなのかと――
「戦うことが……怖く……ないのか
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