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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
幕間三 伯爵家の政界談義
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弟の英康様が実質的な当主となっている」

「あぁ彼らは元々、皇主が以前から護州の有力な豪族だったらしい、治水に長け一時は護州と背州を領有してあの山麓を切り開いていたからな。守旧的な貴族意識が高い。建設業が盛んな護州と未開発だった北領を領有していたからな。辺境の開発にも携わっていた上に北領の開発を独占しておたことにより五将家の中では財政的に比較的良好な状況だった」
 そして領民に慕われているのもそこにある。少なくとも天領の経済発展に負けない成長の実感を与え合たのは事実だ。
「それをいい事に英康閣下は自儘に振る舞っているのですかね」

「それは不当な侮りだな、彼は彼なりの在り方とはいえ一種の傑物だと私は評価する、そして警戒すべき相手だ。お前は天狼の後しか知らぬからやむを得ぬか」

「け、軽率ですかね」

「お前が見て取った通り彼の態度は悪い意味で貴族的だ。だが護州の家臣団だけではなく建設業や技術官僚など影響力、求心力は極めて強い。北領失陥によりこの戦争で負った痛手は閨閥の中では随一だろう。それでも権勢を損なわずに回しているのは守原英康の手腕にほからなんよ」

「実利を齎すという点においては辣腕という事ですかね」
「いやそれとも違う、それなら保胤殿や安東の方が手腕としては上だ」

「そうなると――?」

「お前にはまだわからないだろうな、彼の場合は“利益を配分して納得させる事”だ。あぁ能吏ではないし天下の大将軍とはいえんだろう、大政治家ともいえぬ。だが彼は間違いなく一種の傑物だ」
 由房がみていた守原秀康は軍人として周囲から受けた評価とはまた異なっている。
「力と恐れだけでは人は動かん。それに利を与えれば合理となって信用を生み出せる」

「でも今やってる事はあまりその適性には向いてないですよね」

「そうだな。安東家、宮野木家と組み、駒城家を潰し<皇国>の主導権を握る――まぁ閨閥を維持する上ではやらねばならんだろうがなぁ、不運なのだろうな、彼も」

 そういうと伯爵は視線を窓の外に向けた。葵はその父の姿にふと英康を重ねてみた。考えてみれば父と対立していたあの男も行き詰った五将家体制をどうにか回そうと足掻いているのかもしれない。やがて自分も父から引き継がされるであろう家という荷。その重さは自分よりもあの男の方が重く古びている――だが迷惑な事は何一つ変わらない。誰も彼もがのっぴきならない事情で多くの荷物を抱えて挑む、それが政争というものなのだろう。

「さて次は宮野木だな。ここも少々ややこしいところだ」

「当主と鎮台司令官――軍の指揮官が違うのですよね」

「そうだ、宮野木の現当主である宮野木和麿は、軍での専横が過ぎたため、退役させられている。そのことで駒城家と西原、とりわけ駒城篤胤公を恨んでいる。特に駒
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