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機動戦士ガンダム アルテイシア二次創作
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 砂が螺旋を描いて舞い上がっていた。砂塵で葡萄茶色に霞んだ視界。その向こうで遠くなっていく兄の背中。まだ少女だったセイラは、声を張り上げてそれを引き留めようとしていたが、砂嵐の中懸命に歩みを進めても華奢な体では強風にあらがえずすぐに転んでしまう。彼女の矮躯をテキサスコロニーの大地が絡め取り、白く小さな膝が熱を滞留させた砂地に埋もれる。養父からもらったお気に入りの服が砂で汚れた。だがセイラは薄く浮かんだ砂粒混じりの涙を乱暴に拭って、めげずに立ちあがった。震える足を無理に動かして再び兄の背中に向かって走り出す。すぐに足を取られる。それを幾度も繰り返した。顔を上げるたびに兄の背中は小さくなっていく。
「待って! 兄さん! キャスバル兄さん!」
 禁じられているはずの本当の名前でセイラは叫んでいた。口の中に砂粒が入り込んでじゃりじゃりと不快な感触がしたが、それでも彼女は叫ぶのをやめなかった。兄は振り向かない。トレンチコートを靡かせ、強い風にも確かな足取りで歩んでいく。キャスバルは、覚束ない足取りで自分の名前を呼ぶ妹を一瞥さえしなかった。
 消えゆく兄の後ろ姿を見つめ、そして追い求めるように手を延ばして・・・・・・セイラーーいや、アルテイシアは母との別れ以来久しく流さずにいた涙を滂沱と溢れさせた。汚れた頬をずっと我慢していた涙が伝い、白く跡ができた。立ち上がる体力はもうなく、すすり泣く以外に彼女に残された道はない。風に煽られて自慢の金髪が軋みを上げ、嗚咽で不安定な息づかいが口笛を吹くような風音にかき消されていった。
 後には家族を失った孤独な少女が一人と、風が吹き荒ぶ荒野だけ・・・・・・。

「っ・・・・・・」
 セイラ・マスはそんな悪夢から目覚めて、しばらく悄然と天井を眺めていた。まだ時刻は夜明け前で、簡素な寝室を薄暗闇と静謐と控えめな時計の音だけが支配している。
 幼い頃、悪夢を見たときには母親が眠るまで子守歌を歌ってくれたものだが、もう今の彼女は一人の大人の女性であり、何よりも泣きつく相手がいなかった。だから彼女は特段騒ぐでもなくベッドから起きあがるとラジオをつけて、窓越しの椅子にしなだれかかるように浅く腰掛けた。嫌な汗が寝間着の中をじっとりと濡らしていたが着替える気力もない。しばらく頭を抱えるようにしてラジオのジャズ音楽に耳を傾けていると、寝る前に気付け用に飲んだブランデーの瓶とグラスが、丸テーブルの上に放置されていることにふと気づいた。欲求よりも惰性でそれを開けてグラスに注ぎ、一気に仰ぐ。食道を駆け抜けていく熱。その熱があのときの荒野の空気を連想させて、酒の味など感じるまでもなく不快になってしまう。セイラは二杯目を注ぐことなく瓶の蓋を閉めた。やがてジャズの音量が下がり、堅い印象の男性アナウンサーの声がニュースを読み上げる。不毛な時間を、また胃
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