暁 〜小説投稿サイト〜
シベリアンハイキング
カラケレイト
睨む二匹

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先を行く一匹を追って数分程たったころ、ユスフはふと山側の斜面に気配を感じた。30〜40匹。それだけの数の呼吸というか、心臓の音が山の斜面の岩の陰から聞こえてくるような気がした。数秒後、先導していた顔無き狼が立ち止まり、ふとその斜面に体を向けた。すると、斜面の岩という岩から先ほどとは比べ物にならないくらいの数の狼たちがぞろぞろと出てきたのである。嫌な予感が当たってしまった。数も先ほどの直感をこえ50匹以上いるであろうか。この顔なしの狼に、罠に嵌められたかとその時は思われた。大群である。とても相手にできる数ではない。かといって逃げきれるわけでもない。生存の可能性は己の手に無いことは明白であった。ふと大群の中の一匹が進み出て、この顔無き先導者のもとに歩み寄ってきた。近づくと唸り声とともに牙をむき出しにし、顔の無い相手に対して全身全霊で威嚇しているのが見て取れた。この怒れる一匹が次にユスフのほうを向いた。明らかに殺意を抱いている。そこへ顔無き狼が割って入って怒れる狼に立ちふさがる。終始向かい合っていた二匹だが、両方とも微動だにしない。この時ユスフはふと考えた。ここで争いになった場合、この顔の無い犬はどうやって相対する同族と戦うのか。普通に考えれば、まず、顔が無いので噛みつく牙が無い。有ったとしても満足に使える体力も残っているとは思われぬ足取りである。一方相手は群れの中でも飛び抜けて大きい体をしている。明らかに相手の方に分があるものの、顔無しは一歩も退かずにそこで立ち続けるのだった。
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