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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十五話 報告と対策と献策
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 龍州が皇龍道沿い、爆破された橋をくぐり、家族が北へと進む。すっぽりと編み笠で顔を隠した若い男は櫂を漕ぐことを手伝いもせず胡坐を組んでピクリとも動かない。だが誰もそれをとがめることもせず流れにさからい、北へ、北へ、と川を上る。進む先に聳える山麓を眺め、老婆は懐かしそうに目を細めた。

 


皇紀五百六十八年八月二十四日
駒州軍司令部庁舎 第一会議室 “六芒郭防衛に関する報告会議”
 独立混成第十四連隊 聯隊長 馬堂豊久中佐



「それで中佐、六芒郭の防衛設備について問題はないという事で良いのかね?」
 豊久に確認の質問を飛ばしたのは駒州軍参謀長である益満敦紀少将である。彼を筆頭に軍中枢を担う参謀たちが豊久に目を向けている。

「六芒郭の改修については工兵隊長殿の報告書の通りです。新城少佐らの意見を取り入れた事でより現地の運用に適したものに仕上がっているはずです」

「そうか、そうなると問題は部隊だな」

「ご賢察の通りでございます。問題は指揮系統ですね。大尉が増強大隊を率いて中尉が中隊をひきいているような有様です。こちらの方がよほど深刻な問題です」

「将校の不足はどうにもなるまい」
 それはまさしくその通りであった。既存の大隊クラスを組み込むのならまだしも、将校を十数人送り込んだところで役に立つようになるには一月はかかる。
「佐官以上の将校が欠如した万単位の部隊です、むしろ要塞防衛隊として機能しているだけでも驚異的な努力の賜物かと」

「言ってしまえば下士官兵と衆民将校の結束、つまり新城少佐の武勲と経験、そして衆民受けのする出自に依拠した統率力ですね、これと大隊本部の運営能力に大きく依存しています。指揮系統の再編が行われていますが将校が不足している上に前例が存在しない事態です。これは私の推察ですが、おそらくは大隊本部への集権体制が続くかと」

 これは新城直衛の部隊構築者としての才覚への疑問視ではない、元が大隊と半壊した旅団程度を母体として大隊、聯隊級を統制しつつ高度の戦術処理能力を持った司令部を新たに作れるか、という問題に対しての馬堂豊久が単純な常識的な論理から出した答えであった。

「六芒郭の救援をどうするかだ。新城支隊がどこまで動けるか怪しいものであるのなら支援を手厚くするしかあるまい」

 戦務主任の鍬井大佐が手を挙げた。
「第十四連隊長、敵と直接当たったから上で本領軍に対する評価を伺いたい」

「そうですね――敵は王道の戦を好んでいます。本領軍というだけあり、個々の兵、将校の判断力は極めて高いです。ですが夜戦への対応力、剣虎兵への対策などは龍口湾で相対した東方辺境領軍からは引き継がれておりません。もっとも、敵軍は追撃戦を行っており、今はまだ十全な準備を整えられないからでもありま
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