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俺の涼風 ぼくと涼風
14. 二人だけの夜(1)
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「……今朝、ヤツが脱獄したそうだ」

 ゆきおとの外出のあと、私は提督に執務室に呼ばれ、そして、知りたくなかった事実を告げられた。その途端、私の身体の芯に、氷水が流された感覚が走り、手に力が入らず、足がガクガクと震え始めた。

 提督の話によると、刑務所に収監されていたノムラの脱走が発覚したのは、今朝だそうだ。刑務官がノムラを呼びに独房に向かったところ、すでにノムラの姿はなかったらしい。手口は分からない。だがその場には、ノムラの囚人服が脱ぎ捨てられていたことから、周到に計画された脱獄であることが、見て取れたそうだ。

「あ、あのさ……提督」
「ん?」
「ゆきおは……?」
「……この話はまだゆきおに聞かせたくないだろう。自分の部屋に戻ってもらった。お前のことをひどく心配してたけどな」

 帰り際、バスの中でゆきおは、ずっと私の手を握ってくれていた。そればかりか、恐怖で身体をガクガクと震わせる私を気遣って、自分のダッフルコートを私に羽織らせてくれ、握った手を必死にさすり、なんとかして私を温めようとしてくれていた。確かに私は、ゆきおのダッフルコートを羽織ってみたいと思ったけれど、それは、こんな絶望下でのことじゃない。もっと、二人で笑顔を浮かべながら羽織りたかった。それなのに……。

「……実はな。摩耶にお前たちの監視を頼んでいた。お前たちでは対処出来ない事態に備えてのことだったが……」
「……」
「その摩耶が言うには、お前が雑貨屋の前で急に身体を震わせ始めた時、何人かの人間がお前とすれ違ってたらしいな」
「う、うん……」
「その中の一人がノムラだったんじゃないかと言っていた」

 摩耶姉ちゃんが私たちのことを見守ってくれていたということも知らなかったけれど……あの雑貨屋の前ですれ違った人たちの中に、ノムラがいたのか……たくさんのお客さんがいたから、私は全然気が付かなかった……

「お前に接触してきたということは、お前にまだ固執しているんだろう」

 私の胸が、誰かの手にギュッと鷲掴みされたかのような感覚……息苦しく、不快な感触が胸を襲う。

「この鎮守府にいる以上余計な心配はいらないが……念の為だ。以前に渡した発信機は、常に身につけておけ」
「うん……」
「一人で部屋に戻れるか?」
「大丈夫」



 執務室をあとにした私は、そのまま一人で自分の部屋へと戻る。一人で歩く夜の廊下は、カツカツと私の足音が必要以上に鳴り響くほど静かで、それが私の恐怖をかき立てた。

 いつも以上に、廊下に響く私の足音がうるさい。それこそ、お昼のスーパーの中の喧騒以上に騒がしく感じる。このうるさい音にまぎれて、あの男の息遣いが聞こえてくるようで……ノムラが微笑むニチャリという音が紛れているようで、私は歩きながらも耳をそば
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