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魔界転生~リターン・オブ・ゲヘナ~
02 異端十字
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「剣先が濁って見えるますよ」
 白髪の老人は体の芯を支えるように杖を持ち、薄っすらと開いた目をメガネの下で輝かせていた。
道場の片隅で蟇肌竹刀(ひきはだしない)で形をしていた柳の背を見て。
柳は振り返る事なく老人の持つ独特の空気に顔色を濁らせ口を曲げて答える。
「……何しに来たんですか? ここじゃビールなんて出していませんよ」
「では下で少し呑もうか?」
「……冗談ですよね、勘弁してくださいよ」
 午後8時を回った大手町は未だ人で賑わっているが、その大半は家路を急ぐ者達だ。
大手町には遊興施設が少ない、全くないわけでは無い訳ではなく永代通りに沿う形に作られた洒落た上に少々敷居の高い飲食店ばかり。
白髪のジジイと柳のような不良中年が行くような場所でもない。
 背中の側、微動もしない老人に諦めたように柳は振り返る。
「何の用ですか社長、いや今年の春から会長でしたか?」
「会長ですよ、柳「平社員」くん」
 喉に刺さり止まる怒声。
同じ会社に勤めていても確たる地位の差は怒鳴ったところで覆らない。
 御陵(ごりょう)財閥会長・陵角清里(りょうかく・きよさと)は振り返った柳を蔑んだ目でみる。
「警視総監たっての願いで「新陰流」師範として君をここに置いているのですから、もっと熱心に指導にあたっていただかないと。心を落ち着け道着を身につけて、スーツのままなど礼に反しますよ。これは貴方に課された仕事なのですから」
「わかってますよ、せっかく頂いた仕事ですから頑張らせていただきますよ」
 不遜は顔に出ても言葉には出せない。
柳一生にとって陵角清里は親の仇、会社を乗っ取った憎き存在。


 35歳を越す頃まで、親の許しをいいことに武道三昧の放蕩生活を続けた柳にとって後地方財閥の雄にしてその頂点であった父の死が人生を一転させるのは当然の報いにも思えた。
 父の後を継ぐ事を約束し、武道に打ち込みつつもAランクの大学を卒業し海外の大学にも通った。
武道に三昧とはいえ会社も順当に勤め上げていた中での大きな喪失。
 西国財閥当主柳宗一(やなぎ・そういち)の死。
父の死を悲しむ余裕はなかった。
方手間で会社勤めをしてきたツケはこの時大鉈を振り落としたように、柳の人生、その成功をぶった切っていた。
 新社長として会社の頂点に立ったのは柳一族の者ではなかった。
 財閥乗っ取り。
どんな手をつかったかわからない。
陵角が協力会社の社長である事はわかっていたが瞬く間に会社は制圧され柳一族は複数要職に残れたものの会社そのものは完全に奪われた形なってしまった。
 その名も財も。
当然一生が要職に就く道は閉ざされ平社員として一から勉強をしなおせと陵角のお情けで会社に席を置く形となっていた。


「随分とマメに見に来るんですね」
「え
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