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魔界転生~リターン・オブ・ゲヘナ~
01 夏の午後
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「くっそ暑いのにご苦労さんなことですねぇ」
 軽口にタバコをくわえた堂本尊(どうもと・たける)は、資材管理室の一角で小窓を開け下を見る。
明るめネイビーの真新しいスーツを小気味よく着こなしている姿は一見するとチャラい堂本は額の汗を拭う。
「今日は35度超えるっていうのに朝から並んでますよ、みんな燃え死に候補生ですかぁ」
「死ぬなんて言ってはダメですよ、それだけ心配なんですよ」
 軽口だが目線は離さず、この都会に不似合いな場所へと向かう列を見る堂本の後ろ、柳一生(やなぎ・かずお)は見苦しい鳥の巣頭で横に並んだ。
「それにご苦労なんて気分でもないでしょう。皆さん家族が戻ってくる事を願って参勤しているのですから」
 無精髭の顔からはおおよそ想像のつかない丁寧な口調。
柳一生は着崩し、だらしなくぶら下げたネクタイのまま眼下を歩く集団を見ていた
「変な事件じゃなきゃいいんですけどね……」と。


 日本国の心臓でもある大都会東京。
真夏の熱気に茹で上がり道路に蜃気楼を見せる大手町は、政府御用達金融機関に商社・銀行と軒を揃えた経済的中心地。
2000年代初頭から始まった老朽建築物の建て替えによりこの町は昭和の匂いを一切合切消し先進都市として生まれ変わった。
 超高層ビルを東京駅の前に持ち、周りに並ぶビル群も精錬されたデザインにして巨大なモニュメントのように立ち並ぶ。
 壁面を覆うガラス張り、基底部から上な作られたコンコースはサロンの入り口として申し分ない作り。
高い天井を飾る光のアート。
照明までもが宝石箱の夜を見せる、セレブたちが仕立て良い服で出入りを繰り返し、世界を股にかけるビジネスマンが闊歩する。
 歩道には先進の道案内システムが組み込まれ、ガイドボックスにスマホ接続することで目的地への案内が無料でサービスされる。
 大手町から銀座・国会議事堂に主要官庁をつなぐ専用のEVカーが設置され、日本における政治経済の頭脳としてスムーズで快適な土地となった大手町だが、ただ一箇所だけ時間の止まった場所があり、今そこに向かって歩く人の列がある。


「堂本さん、こんなところでサボってないで、ここを参勤する人たちの事を調べた方がいいんじゃなんですか?」
「さんとか敬語やめてくださいよ。くんとか呼び捨てでいいですよって、参勤? 参勤ってなんですか柳さん?」
 タバコの煙がため息と一緒に口から出る。
資材隔離室で堂本とお忍びで喫煙を楽しむ男、柳一生(やなぎ・かずお)。
不揃いなヒゲ粒を撫でる。
不精を絵に描いたような寝ぼけ面が眼下を歩く列をかわいそうにと見つめるて。
「参勤ってのは……お参りですよ勤めて参る。あの人たちの状況はそういうものでしょう、家族に無事に帰ってきて欲しいって願掛けをしているんですよ」
「あの石碑ってそう
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