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霊群の杜
ぬらりひょん
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―――発端は、飛縁魔に俺が抱き続けている疑問だった。

この間、めでたく一児の父となった鴫崎が死にそうな形相で立派な椅子を担いで石段を登って来た。
靴底のゴムをシビアに跳ね返す硬く冷たい石段といい、一旦溶けて固まった雪がこびりつく手すりといい、冬の玉群神社は来る者をも拒む人外魔境である。
「……なんか、すまん」
俺も背もたれ側を支えて一緒に石段を昇っていた。ちらつき始めた粉雪の冷たさが、体中に染み込む寒気をいや増す。
「くっそぅあの野郎…普通こんな日に椅子抱えて石段昇らせるか!?あいつ絶対、嫁を未亡人にする気だぜ!?」
「……あー……」
そこまで考えてはいないだろうが、フォローのしようがない。降り始めの雪は既に石段を薄く覆い始めている。間もなく石段は雪に埋もれ、外界との接触は断たれることだろう。…めでたしめでたし。


というわけにもいかないのだ。


屏風のように背後を覆う山脈のせいか、この土地は雲の抜けが悪い。普段はちらつく程度だが、たまに戸が開かなくなるレベルの大雪に発展することもある。そうでなくても出不精の奉は、本当に飢え死にでもしかねない。
どぼぅ…という枝から雪が滑り落ちる音と鴫崎の悲鳴に、ふっと我に返った。
檜の枝から滑り落ちた雪の塊が鴫崎の頭を直撃した。半泣きで『あいつ殺す、この椅子で殴り殺す』とか配達員にあるまじき台詞を吐く鴫崎に、こいつ余所でもこんな態度じゃなかろうな、と一抹の不安を覚えたがそれはさておき。
「…まぁまぁ。きじとらさん居るかもしれないだろ」
「おうよ、この不毛な日参の原動力はきじとらさんを始めとした美女集団よ」
妹も奇跡的に可愛いし、美女の巣だよな何気に、ぐっふっふ…などと呟きながら気を取り直し、椅子の脚を抱え直す鴫崎。…こいつのメンタルの単調さが羨ましい。
「集団ってほど居たか?」
「居るだろ最近。あのオッパイでかい美女とか、眼鏡のおしとやか美女とか」
「飛縁魔と静流さんか」
飛縁魔には最近、借りを作りっ放しだ、気味悪いほど。だが妖の類には警戒を怠らない奉が、どういうわけか飛縁魔にはノーガードなのだ。
過去につけ入られている俺は、借りが増える度に戦々恐々としているのだが、今のところ完全に俺の一人相撲だ。
「静流さんはともかく、飛縁魔は…」
妖だぞ、と云いかけた瞬間、俺のスマホが鳴った。
暗い液晶に『奉』と表示されていた。俺は一瞬背もたれを離した。
「――何だ。今そっちに向かってんだが。鴫崎と一緒に」
『こっちに?』
「もうすぐ神社に着く。たまにはお前も手伝えよ、頼みっ放しじゃなくてよ」
『神社に?なに云ってんだお前ら』
―――自分で注文しといて、何云ってんだ?
『伝票をよく見ろ』
「伝票を…」
椅子の背もたれに貼られた
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