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羽衣を捨てて
第二章

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「こんな幸せモンはない、ただな」
「ただ?」
「おめえが幸せならな」
 それならとだ、二人の間に生まれた子供を愛おし気に抱きながらそのうえでお宮に対して言うのだった。
「最高なんだが、しかしおめえはなおらがな」
「衣、羽衣をですか」
「取って、だからな」
 自分でこのことを言うだった。
「無理に女房にしただろ」
「それは」
「それで幸せか?」
 こう言うのだった。
「おめえは」
「あの、幸せでないなら」
「おめえにはずっと一緒にいて欲しい」
 寂しい、それでいて切実な顔での言葉だった。二人が暮らしている幸吉の家の中で話すのだった。家の中には漁に使う網や銛が置かれている。
「出来たらな、それでもな」
「私が幸せでないなら」
「おめえには悪いことしてるな」
 自分で言うのだった。
「おらは」
「そうですか」
「ああ、おらだけ幸せになってもな」
 それもというのだ。
「よくないだろ、おめえもな」
「幸せでないと」
「そうも思うんだ」 
 これが幸吉の今の思いだった。
「おらは確かに幸せだがな」
「このことは」
「戻りたいか?天界に」
 幸吉は自分の前に座るお宮に尋ねた。
「そうしたいか?」
「それは」
「やっぱりそう思うよな」
 お宮の気持ちを察して言った。
「そうだよな」
「・・・・・・・・・」
「おらはおめえに悪いことをしている」
 自分を振り返った、そのうえでの言葉だった。
「おら一人いい思いをしたくておめの羽衣を隠したんだからな」
「・・・・・・・・・」
 お宮は何も言えなくなった、幸吉のその目を見ているだけだった。幸吉はそのお宮にさらに話していく。
「なあ、いいか?」
「いいとは」
「羽衣出そうか」
 隠しているそれをというのだ。
「これからな」
「では」
「坊主もな」
 今抱いている自分の子も見た。
「何ならな」
「天界にですか」
「持って行くか?」 
 こうも言うのだった。
「そうするか?」
「あの」
 切実な顔で言う幸吉にだ、お宮は言った。
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