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悪魔の劇薬
第九章

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「だからな」
「はい、そうしてもですね」
「楽しもうな」
「わかりました」 
 ハンスはイブンに笑顔で答えた、そして今度は甘いイスラムの菓子を食べつつコーヒーを飲んだ。こうして彼は完全にコーヒーの虜になった。
 そしてだった、彼は一旦祖国に戻ったがすぐにイスタンブールに戻って来てイブンのところに来てこんなことを言った。
「決めました」
「あんたまさか」
「はい、改宗はしませんが」
 イスラムへのそれはというのだ。
「この街はそれでも生きていけますし」
「改宗したいなら何時でも出来るけれどな」
 この辺りイスラムは実に寛容だ、来る者は何時でも拒むどころか笑顔で迎えるのだ。
「それはそれだな」
「はい、ですが」
「これからはこの街で住んで商いをするかい」
「そうします、欧州にはコーヒーはないですが」
 しかしというのだ。
「ここにはありますから」
「だからコーヒーを飲みながらか」
「ここで暮らしていきます」
「そうするんだな」
「そうします」
「どうやらあんた完全に毒にやられたな」
 イブンはハンスの目を輝かせての言葉に笑って返した。
「コーヒーの毒に」
「そうですね、ですが」
「それでもかい」
「もうコーヒーから離れられません」
 あの時に飲んですっかり魅了されたというのだ。
「そうなりましたから」
「だからか」
「はい、もうここで暮らします」
「コーヒーをずっと飲んでいきたいんだな」
「そうです、神に召されるその時まで」
 こう言って実際にだった、ハンスは改宗こそしなかったがその生涯をイスタンブールで商いをして過ごした。彼は毎日コーヒーを飲んでいた、そして飲みつつこれがなくて何の人生かと言っていた。彼が言う恐ろしい悪魔の毒を飲みつつ。


悪魔の劇薬   完


                          2017・3・20
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