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悪魔の劇薬
第二章

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「まあ話をするのもいいかもな」
「ここに来るからにはいきなり襲い掛かっても来ないだろう」
「キリスト教にはそうした奴も多いが」
「十字軍もそうだったしな」
「暴れて殺して壊しまくる連中だが」
「流石にここまであえて来る者はそうしないだろう」
 十字軍を代表とする多くのキリスト教徒達はとは違ってというのだ。
「アラビア語やトルコ語もわかるかもな」
「では話をしてみるか」
「そうするか」
 こう話してだ、そのうえでだった。
 彼等は一旦商いに戻った、それはイブンも同じだったが彼はその不思議なデンマーク人の話を覚えていた。そしてだった。
 この話から十日程経った時にだ、彼が商っているイスタンブールの市場の果物屋の前を欧州の服それもかなり厚着で薄い金髪に青い瞳、それに白い肌の若者を見た。その若者は周囲をしきりにきょろきょろと見回しつつ見て回っていた。
 その外見と探している様子から若しやと思いだ、彼は若者にトルコ語で声をかけた。
「そこの欧州の人」
「はい?」
 聞き慣れない言葉で返してきたがすぐにだ、彼はたどたどしいトルコ語で返してきた。
「私のことですか」
「そうだよ、あんたデンマークって国から来たのかい?」
「はい」
 そうだという返事だった。
「そうですが」
「ああ、あんたか」
「私のことをご存知で」
「ご存知も何も噂になってるぜ」
「噂に?」
「そうだよ、毒を探してるってな」
「はい、実はです」
 若者はイブンの言葉を受けて彼の店の前にまで来て話した。
「この街で恐ろしい劇薬を売っていると聞いていまして」
「イスタンブールでかい?」
「主に。異教徒達の国全体で」
 若者はイブンにこうも言った。
「聞いていまして」
「毒をかい?」
「それもおおっぴらに」
「おいおい、待ってくれよ」 
 イブンは笑って若者に言った。
「毒なんて売っている筈がないだろう」
「そうですか」
「表の市場にはな」
 それこそというのだ。
「売っている筈がないだろう」
「ですが」
「イスラムじゃそうだっていうのかい?」
「そう聞きまして」
「おいおい、毒とかおおっぴらに売ってたらな」
 それこそとだ、イブンは若者にまた言った。
「捕まるぜ」
「イスラムの世界でも」
「そうだよ、それこそな」
「そうなのですね」
「当たり前だよ」
 イブンはここでもわr縦いた。
「そんなの何処でもさ」
「そうですか」
「ああ、そしてな」
「そしてとは」
「あんたの名前を聞いてなかったな」
 イブンは異国、そして異教の若者に気さくに笑ってこうも言った。
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