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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第二十一話 宴会2
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きた人物と思えなかった。
 いや、縁談話を俺に持ちかけるかの判断をするために俺の陣所にやってくるのが訪問理由だったに違いない。そこで俺は昨夜に藤林正保の言葉を思い出した。面倒そうな人物に見込まれたようだ。大名が他家の者に縁談話を持ちかけるということは自家と他家の結びつきを強めることが目的なはずだ。それに蒲生氏郷とまるっきり縁のない女性を俺の縁談相手にしようとするわけがない。間違いなく蒲生氏郷の縁者になる。
 俺はまだ十二歳だぞ。勝手に縁談相手を決められては困る。このまま蒲生氏郷に秀吉へ俺の縁談の話を相談されても困る。だが、俺の不安を余所に蒲生氏郷が風を切るように颯爽と立ち去って行った。俺は彼の後ろ姿をなす術もなく見送るしかなかった。
 俺は途端に脱力してしまった。

「終わった。全てが終わった」
「殿、どうされたのです?」

 脱力する俺に夏が声をかけてきた。俺は夏の声を無視した。
 どうすればいい。蒲生氏郷の動きを止めることは俺にできない。
 だが、見過ごすしかできない。

「殿、大丈夫ですか?」

 夏が俺を心配そうように声をかけてきた。

「夏、大丈夫だ。酒を飲み過ぎたようだ」
「では、奥で身体を休まれますか?」
「それには及ばない。水を持ってきてくれないか?」

 俺が夏に頼むと彼女は俺の小姓に水を持ってくるように指示してくれた。俺は視線を家臣達に向けつつ、この状況をいかに脱するか考えていた。
 蒲生氏郷の縁者を俺の正室に迎えることができれば俺の政治的影響力は比較的に上がってくる。悪い話じゃないんだろう。だが、面倒事も抱えてしまう気がしてならない。良家の娘をもらっても変に気を遣わなけばいけない相手はお断りだ。結婚後も蒲生氏郷の顔色を窺わなくちゃいけなくなるかもしれない。気が休まらない日々が待っていそうだ。
 気分が鬱になる。酔いが一気に醒めてしまった。

「殿、水をお持ちしました」

 夏が俺に水を持ってきてくれた。木の椀に水が注がれていた。俺は椀を受け取ると水を口に含んだ。
 生ぬるい水だ。今の俺の気持ちそのものだ。
 まずは城攻めに集中することにする。城攻めに失敗すれば俺は破滅だ。
 縁談話を潰すのはその後だ。
 手はある。
 蒲生氏郷の先手を打つため、俺の正室候補を探し出すしかない。それも蒲生氏郷も引き下がるえない人物になってくる。そんな人物は早々いるとは思えない。秀吉が納得する人物でれば、蒲生氏郷が縁談の相手を連れてきても潰せる。秀吉は良い意味でも悪い意味でも独裁者だ。秀吉が俺と蒲生家の縁談を望めば俺の思惑は水泡に帰すことになる。
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