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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十四話 肉を斬らせる
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呟く、提督がそれに頷いた。

「フェザーンに赴き、アドリアン・ルビンスキーと接触するのです」
「黒狐とですか」
驚いたのだろう、参謀長は目を見張ってフェザーンの自治領主の異称を口にした。そして何か考えている。

極秘任務、フェザーンに赴きルビンスキーと会う……。なるほど、艦隊を離れるのは単純に第一特設艦隊を、司令部を鍛える事だけが目的では無いというわけか。となると俺が此処に呼ばれたわけは同行して護衛をしろと言う事だろう。つまりフェザーン行はそれなりに危険が有るとヴァレンシュタイン提督は見ている。

「巡航艦を一隻用意してください。艦も艦長も信頼できる艦が良いですね」
「それは構いませんが、もう少し説明を願えませんか。ルビンスキーとの接触とは政府の命令なのでしょうか」
チュン参謀長の問いかけにヴァレンシュタイン提督は静かに首を横に振った。

「そうでは有りません、政府の命令ではなく軍の命令、極秘作戦です」
極秘作戦、その言葉に部屋の空気が重くなった。チュン参謀長が一瞬目を逸らし考え込む姿を見せた。

「極秘作戦というと」
「帝国軍を同盟領内に大規模出兵させる、それを目的とした挑発行為です。今帝国は極度に不安定な状態にあります、余り出兵はしたくないと考えている。ルビンスキーと接触する事で同盟はフェザーンを取り込もうとしている……、そう帝国に思わせるのが目的です」

なるほど、帝国は今不安定な状況に有る。出来れば出兵などは避けたいだろう。しかし帝国はフェザーンの離反を放置はできない。それを防ごうとするならば同盟軍を叩くしかない……。嫌がる帝国軍を引き摺りだそうと言うわけか……。

「しかし、宜しいのですか。政府の許可なしでフェザーンの自治領主に接触するなど……、後々厄介な事になりませんか。今更ですがフェザーンに接触するよりイゼルローン要塞を攻撃する、その姿勢を見せる事で帝国軍の出兵を狙った方が良かったのではと思いますが……」

チュン参謀長は表情を曇らせている。フェザーンは経済面で同盟と密接に絡んでいる。政府もそれには配慮しなくてはならない。軍が勝手にフェザーンに対して行動を起こして良いのか? もっともな懸念だろう。

「要塞攻防戦は効率が悪いですからね」
「いっそイゼルローン要塞を落としてそこで防衛戦と言うのはどうです。帝国はイゼルローンを必ず奪回しようとするでしょう。そちらの方が効率は良いと思いますがね」

俺の言葉にチュン参謀長が鋭い視線を向けてきた。
「簡単に言わないでもらおう、あれはそう容易く落ちる代物ではない」
いかんな、声が低い、怒っているのか? 僅かに肩を竦める仕草をした。半分はジョークだ、あれが簡単に落ちる代物では無い事は俺も理解している。ちょっと雰囲気を変えようとしただけなんだが……。

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