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タガメ
第十二章
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「お池をね」
「造るの」
「そこで養殖をしていくよ」
「水槽からなのね」
「そうなったよ、じゃあね」
「そちらも頑張ってね」
「そうしていくよ、彼等実はね」
 水棲昆虫達はとだ、夏樹は朝食のトーストを食べつつ妻に話した。三十になってから妙に太りだした妻にの郁代に。
「売れるんだ」
「そうなの」
「実際結構いい値段でね」
「売れてなの」
「それで予算も増えたんだ」
「あなた彼等を街の産業にするって言ってたわね」
「その一つにね」
 市政に携わる者としての言葉だ。
「だからね」
「それでなの」
「うん、売れて何よりだよ」
「そちらもなの」
「そうだよ、だからこのまま収益をあげていって」
「市の利益にして」
「それからね」
 夏樹は目を輝かせつつ妻に言った。
「市のピーアールにもなるから」
「タガメとかがいる位になのね」
「そう、水が奇麗だってね」
「そうした宣伝にもなるから」
「いいよ」
 そうなるというのだ。
「本当にね」
「それは何よりね」
「うん、何か僕の願いから」
 子供の頃からのそれからとだ、夏樹は郁代に語った。
「かなりのことになったね」
「そうね、市にとっていいことになってるわ」
「本当にね」
「収益にもなって宣伝にもなって」
「それに何といってもね」
「市にとっていいことね」
 郁代もこう言った、ここで。
「そうした虫がいるのもね」
「いいよね」
「川やお池に色々な生きものがいることはね」
「それだけでね」
「いいことだと思うわ」
「何もいないよりずっといいね」
「ええ、何もいない川やお池は」
 どうしたものかとだ、郁代は学生時代に読んだ沈黙の春という本を思い出した。日本語訳の文庫本を読んだのだ。
「寂しいものよ」
「そうだよね」
「ええ、いいと思うわ」
 郁代はまた言った。
「本当にね」
「それじゃあタガメも」
「是非養殖してね」
「そうしてだね」
「市に広めていきましょう」
「市長になっても」
 立候補してだ、当選してもというのだ。
「続けていくよ」
「ええ、そうしたらいいと思うわ」
「是非ね、市の収益と宣伝、何よりも賑やかになるから」
「やっていきましょう」
「そうするよ」
 夏樹はいよいよタガメの養殖に入った、そして彼等も増やしてだった。売り市にも広めていった。彼が市長になった時に市はタガメの街と呼ばれる様になり有名になった。それだけ水が奇麗でいい街だとだ。全ては彼が幼い頃に両親から聞いたことからはじまった。そのことを娘にもうすっかり年老いた両親を前にして話してだ、教授や市役所にいた時の家長今は助役の彼とも友人達とも話した。全てはそこからはじまったとだ。


タガメ   完


          
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