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明日へ吹く風に寄せて
V.千年桜の亡霊
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しまいそうじゃないか。僕は苦笑しながら彌生に聞いた。
「どれ程眠っていた?」
「十八時間程に御座います。主治医の香坂先生に来て頂いて、一応点滴をと。」
 それでか…。あの点滴は眠らせるためのものかは知らないが、そのうち永眠させられそうだ…。そんな他愛もないことを考えていると、襖を開けて颯太が入ってきた。
「大丈夫か?」
「大事ない。あれ位で気を失うとは、僕も修行が足りないようだ。」
 僕がそう言うと、颯太はホッとした顔を見せて言った。
「ま、躰に異常がなけりゃいいんだけどよ。」
「ちっとも宜しくなど御座いません!行方様、貴方も貴方です。櫪家の現当主たる夏輝様のお側に付きながら、主の身の安全さえ護れぬとは何事ですか!」
 颯太の言葉が癇に障ったらしく、彌生は語気を強めて颯太へと詰め寄った。颯太はその彌生さんの勢いに圧され、反論しようにも言葉に詰まる有り様だった。
「彌生さん。そう颯太ばかりを責めんでやってくれ。」
「ですが旦那様…。」
「良いのだ。あの時は僕も不注意だったのだ。略式でも結界すら張らなかったのは、それは僕が相手を見縊っていたからだ。責められるべきは僕ではないか?」
「旦那様がそこまで仰られるのでしたら、私はもう何も申しません。しかしながら、旦那様にもしものことがありますれば、御分家の方々もただでは済まぬことを御承知下さい。」
「分かっているよ、彌生さん。済まないが喉が渇いた。飲み物を用意してくれるかい?」
「畏まりました。」
 彌生さんはそのまま部屋を出て行った。残された颯太は、らしくないほど済まなさそうな顔をしたままだった。
「俺にもう少し力があれば…。そうすれば夏輝だって、こんな風に倒れることはなかったんだ。これは俺の力不足だ。」
「何言ってるんだ。お前は櫪家の人間じゃないし、そんなに強くなられたら反って困る。最初から結界を張っておけば良かっただけの話だ。それは僕自身の落ち度だが、それより君に怪我は無かったのか?」
「俺は平気だ。夏輝が跳ばされた後直ぐに、本間さんが略式結界を張ってくれたんだ。」
「そうか…。」
 運転手をしている本間は、五代前の当主の次男の末裔だ。要は、この次男が婿入りした家の子孫というわけだ。霊力はかなり高く、訳あって櫪家の運転手を勤めている。一方では株なんかをやっているらしく、それなりに儲かっているらしい…。
「あとな、六宝装のうち三つは借りられたぜ?」
「そうか。あと二つは何だ?」
「白法院の白虎の帯と、常善寺の玄武の鈴だ。」
 やはり両方南にあるものか…。櫪家はかなり名の知れた家柄だが、南にはそれが通じない。それは、この町の歴史に由来しているのだ。
 その昔、この土地一体は柳澤という貴族が支配していた。その柳澤家が分裂し、現在の櫪家が誕生したのだ。
 初期は柳澤家
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