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SNOW ROSE
花園の章
I
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 王暦五七九年八月の終わり。王都から北に少し離れた街トリスに彼の姿はあった。
 彼の名はミヒャエル・エリンガー・フォン=プレトリウス。プレトリス王国第三王位継承者であり、水面下では国賊として追手を放たれる身になっていた。しかし、大々的に国賊とされている訳ではなく、飽くまで水面下での話である。

 なぜ大々的に国賊と出来なかったかには、大きく二つの理由があった。
 まず第一に、この国を支える十二貴族が第三王位継承者であるミヒャエルを信頼し、支持しているためである。いかな王子と言えど、この十二貴族の承認無しでは王位に着くことなぞ出来ない。それだけ強い権力を与えられている者たちである。
 第二に、コロニアス大聖堂及び聖グロリア教会より、ミヒャエルへと聖騎士の称号が与えられていることである。この聖騎士の称号は、国の繁栄と宗教への貢献により与えられる最高位であり、これを覆せるのは、二つの宗教の大本山であるサンクト大聖堂に住まう法王だけであり、この位に就いたものは国王ですら易々とは手出し出来ない。
 それを甚だしく思いミヒャエルを国賊として追う人物とは無論、第二王位継承者であるヘルベルト・シュミット・フォン=プレトリウスである。
 ヘルベルトは表面上、父王に刃向かう素振りは見せてはいなかった。だが、大半の貴族は彼が何を考えているかは薄々気付いてはいたのだが、それを口にすることなく黙しているのが精々であった。
 第一王位継承者であったヴィーデウス・アラウ・フォン=プレトリウスの死以降、表立ってヘルベルトへと意見する者は、王城の中には居なかった。彼の手兵である<碧桜騎士団>を恐れていたからである。
 この<碧桜騎士団>は、三分の一を以前は暗殺を生業としていた者達によって構成され、他三分の二も大半が流れの傭兵であり、騎士団と呼ぶにはかなり語弊がある。だが、この碧桜騎士団に消されたと思われる貴族は多く、十二貴族以外にはほぼ、第二王位継承者であるヘルベルトを支持する結果となっていたのであった。
 この不穏当な状況を解決すべく現王シュネーベルガーW世は、ミヒャエル付きであった白薔薇騎士団を内密に召集し、ミヒャエルを至急探し出して保護するよう命じたのであった。

 さて、当のミヒャエルだが、彼はトリスにある一軒の宿屋にいた。
 このトリスという街であるが、ここは十二貴族の一人で現王の弟にあたるルーン公アンドレアス・フリードリヒ・フォン=プレトリウスの統治下にある街である。故に、ここでは流石のヘルベルトも、そう簡単にミヒャエルへと手出しは出来ないのである。
 そういった理由もあり、ミヒャエルはこの街に留まって王都の情報を集めていたのであった。
「ルース、何か飲み物をくれ。」
「はいよ。しかし、ミックさんも大変だねぇ。この暑い最中、毎日野外の仕事なんて
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