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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十二話 予感
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戦術指揮能力が無いとは思えん」

リューネブルクが首を捻っている。その通りだ、どうにも腑に落ちない。反乱軍に加わってから戦術指揮能力を磨いた、そういう事か? どうもおかしい、俺は何か見落としているのか……。成績表を見直した。ヴァレンシュタインの戦術シミュレーションの成績は悪くない……、悪くない? どういう事だ?

「……なるほど、そういう事か……」
「何か分かったか」
リューネブルクが期待するような表情をした。思わず可笑しくなったが、笑いごとではなかった。俺の考えが正しければヴァレンシュタインはやはりとんでもない男だ。

「ヴァレンシュタインの戦術シミュレーションの評価は悪くない、いや、非常に高い。それなのにマシンを使っての戦績は悪い……」
「どういう意味だ、よく分からんが」
リューネブルクが困惑したような表情を見せた。

「授業では勝った、授業以外で負けた、そういう事だろう」
「授業では勝った、授業以外で負けた……、なるほど、そういう事か」
リューネブルクが頻りに頷いている。彼も納得したらしい。シミュレーションの成績と戦績が一致しないのはそのせいだ。

「問題はその授業以外で負けたシミュレーションだ、一体どんな内容だったのか、負けの数が多すぎる事を考えると……」
「……まともなシミュレーションではないな。勝算が極端に少ないケース、或いは皆無のケースだろう」

リューネブルクと視線が合った。難しい顔をしている。どうやら俺が気付いたことに彼も気付いたようだ。
「私もそう思う。おそらく対戦相手はコンピュータだろう。特殊な条件を付けたシミュレーションだ。リューネブルク少将、ヴァレンシュタインはどんな条件を付けたと思う?」

リューネブルクが俺を睨むような目で見た。そして低い声でゆっくりと答えた。
「敵が味方より遥かに強大か、或いは撤退戦だな。勝つ事よりも生き延びる事を選ばざるを得んような撤退……、ヴァンフリートだ!」

最後は吐き捨てるような口調になった。あの戦いを思い出したのだろう。
「私もそう思う。あの男は他の学生が勝敗を競っている時に生き残るためのシミュレーションをしていたのだと思う」

異様と言って良いだろう。俺も随分とシミュレーションは行った。撤退戦もかなりの数をこなした覚えはある。だが三百敗もするほど厳しい条件の撤退戦を行ったことは無い。生き残るという事に異常なほどに執着している。

彼にとって勝利とは生き残ることなのだろう。生き残るために戦う、そして負ける時は死ぬ時……。それは相手に対しても言えるに違いない。自らが生き残るために相手を殺す……、それこそが彼にとっての勝利なのだ。

勝敗ではなく生死を賭ける。ヴァンフリートでの三百万人の戦死がそれを証明している。自らを基地において囮にし、こ
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