第一幕その八
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「絵の具一つでもね」
「ああ、絵の具も」
「それが自由に使えるにしても」
ただそれだけでもというのです。
「それなりの豊かさが必要だからね」
「そうだね、絵の具がないとね」
「カラフルな絵は描けないね」
王子も納得して頷きました。
「そうなるね」
「筆も紙もね」
「そういうことだよ」
「成程ね」
「江戸時代の文化は当時の日本の豊かさと美的感覚が生み出したんだ」
「浮世絵にしても歌舞伎にしても」
「そうだよ、歌舞伎は凄いよ」
先生のお言葉はしみじみとさえしています。
「王子も観てるよね」
「うん、この前京都の偉い学者さんに招待されてね」
「そしてだね」
「南座って場所で観たよ」
「それは何よりだね」
「これをね」
三兄弟が互いに見合っている絵でした、王子はその絵を指し示してそのうえで先生にお話します。
「通しっていう凄く長い上演だったよ」
「これは平安神宮の前だね」
先生はその三兄弟が見合っている絵を観てです、王子に答えました。
「菅原伝授手習鑑だね」
「長いタイトルだね」
「歌舞伎のタイトルは大抵こうなんだ」
「長いんだね」
「そしてとても奇麗な漢字と日本語の読みを題名にしているんだ」
「この絵の作品も」
「そう、奇麗な舞台だったね」
「凄かったよ、三兄弟共着ている服も化粧も派手で舞台もね」
「どれもだね」
「奇麗でね、言い回しとかも」
それまでというのです。
「招待されてよかったと思ったよ」
「それは何よりだね」
「歌劇や京劇やミュージカルと比べてもね」
「引けを取らないね」
「凄かったよ、最後まで観て感動してね」
そしてというのです。
「泣きそうになったよ」
「王子にとって貴重な経験だったよ」
「そうなっているんだね」
「感動して泣きそうになっているならね」
それ程までならというのです。
「その通りだよ」
「そうなんだね」
「うん、王子は日本文化が好きになったね」
「そうだと思うよ」
自分でもというのです。
「いや、よかったよ」
「じゃあ浮世絵もだね」
「いいと思うよ、ただね」
それでもというのです。
「まだ自分でも浮世絵への理解が浅いと思ったからね」
「僕にだね」
「教えて欲しいと思って」
それでというのです。
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