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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十三話 イゼルローンにて(その3)
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う事は出来なかった。ヴァレンシュタイン大佐の笑い声がそれを止めた。

「私もシトレ元帥を高く評価していますよ、強かで計算高い……。シトレ元帥は喜んでくれますよ、生きてる英雄よりも死んでる英雄の方が利用しやすい。文句を言いませんからね」
そういうとヴァレンシュタイン大佐は今度はクスクスと笑い声を上げた。そして笑い終えると生真面目な表情を作った。

どうにもならない、大佐の我々に対する不信感には根強いものが有る。或いは我々と言うより彼を利用しようという国家に対しての不信感なのかもしれない。帝国を理不尽に追われた、その事が権力者に対して強い不信感を持たせている。そしてそれに代わる個人の友誼、信頼関係を結べずにいる。だから彼は痛々しいほどに孤独だ。

「確かに大佐にとって同盟での人生は望んだものではなかったかもしれません。不本意なものだったと思います。そしてその不本意な部分に我々が絡んでいるのも事実……」
「……」
大佐は微かに苦笑を浮かべた。その笑みが俺の心を重くさせる。

「ですが、分かって欲しいのです。我々は大佐を必要としているんです。そして大佐に我々に頼って欲しいと思っている。今の大佐は見ていられんのです……」

そう、頼って欲しいのだ。自分だけで抱え込まないでほしい。ワイドボーン大佐もそれを願っている。皆がそう願っている。

「……ギュンター・キスリングはこんなところで死んではいけないんです。彼は生きなければならない」
「それはヴァレンシュタイン大佐も同じでしょう」
ミハマ大尉が縋る様な口調で説得しようとした。しかしヴァレンシュタイン大佐は苦笑すると説得を拒否した。

「私は本当はこの世界に居ない人間だったんです。生まれた直後ですが一度呼吸が止まりました。そう、一度死んだんですよ、私は。それをどういう訳か今日まで生きてきた……、運命の悪戯でね」
「……」

ヴァレンシュタイン大佐がキスリングに視線を向けた。
「卿はいつも要領が悪い。アントンの悪戯で酷い目にあうのは何時も卿だ。その度に私が卿を助けた。今回もそうだ、私は亡命しているんだぞ。それなのにまた私に後始末をさせる……。これが最後だ、次は無いからな。自分で何とかしろ……」

優しい声だった、優しい目だった。大佐の本当の素顔はこれなのだ。同盟では誰も見たことは無いだろう。ミハマ大尉も無いに違いない……。堪らなかった、思わず声を出していた。

「大佐、小官が行きましょう」
ヴァレンシュタイン大佐が首を横に振った。
「残念ですが、それは駄目です、バグダッシュ中佐。私が行くことで時間を稼げる。貴官では時間を稼ぐことが出来ない」
「……」

確かにそうかもしれない。俺ではキスリングを運んだ瞬間に殺されかねない。しかしヴァレンシュタイン大佐なら向こうも
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