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消えるもの
第二章

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「サンデーで連載しておった」
「っていうと大昔だな」
 興津の身体全体を見てだ、享恭は言った。
「興津さんが十代って」
「その通りじゃ」
「五十年以上前か」
「その頃か」
「そんな昔の漫画か」
「もっと後だったかも知れんが」
「少なくとも俺が生まれる前か、いや親父も」
 享恭は自分の父、最近ウエストが危なくなってきた彼のことを思い出して言った。
「生まれてないか?」
「そんな頃かもな」
「そんな昔の漫画か」
「その漫画の敵の組織がムスカといってな」
 興津はその青の六号という漫画について詳しい話をはじめた。
「まあテロ組織じゃ」
「今で言うとか」
「そんな組織でアメリカとかの潜水艦を攻撃しておった」
「軍隊を直接か」
「そんな組織でな」
「一般市民狙わないのは凄いな」
 今の感覚で言う享恭だった。
「大概テロって一般市民狙うのにな」
「そこは正々堂々じゃな」
「だよな、そんな組織の潜水艦か」
「そうだった」
「そうか、何かな」
 その潜水艦のデザインをまじまじと見てだ、享恭はあらためて言った。
「格好いいな」
「気に入ったか」
「何かな、売ってくれるか?」
「いいぞ、原価でな」
「原価ってこれ滅茶苦茶安いぜ」
 当時の値段だ、享恭は箱に書いてある値段を見てから興津に問うた。
「それでもいいのかよ」
「わしもまだあるとは思ってなかったからな」
「だからかよ」
「いいぞ」
 興津の返事は変わらなかった。
「その値段でな」
「そうか、じゃあ消費税込みでな」
「金のことはしっかりしておるな」
「そういうところはちゃんとしないとな」
 享恭も真面目な顔で返す。
「駄目だしな」
「だからちゃんと払うな」
「失礼な奴じゃがそこはしっかりしておるな」
「まあな、じゃあこれ買うな」
「うむ、毎度あり」
 こうしてだ、享恭はそのムスカの潜水艦のプラモを買って家に帰って作った。そして完成させた次の日にだった。
 その店にまた行ってだ、興津に言った。
「爺さんじゃなかった興津さんいい?」
「最初爺さんと言ったな」
「歳取ってるから聞き間違えたんだろ」
「聞き間違えるか、全く無礼な奴じゃな」
「気にするな、それでだけれどな」
 あらためてだ、享恭は興津に言った。自分の無礼な発言はなかったことにして。
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