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渦巻く滄海 紅き空 【上】
百十五 それぞれの道
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その知らせは、彼女に多大なる衝撃を与えた。


信じられず茫然自失した後押し寄せてきた感情は、驚愕・戸惑い、そして憤り。
里抜けしたサスケを追い駆ける任について、里に帰るなりもたらされたその話に、山中いのは愕然として、暫し何も言えなかった。
無意識に自室にこもり、一人きりでぼんやりする。窓に映る景色が昼から夕方、そして夜へと刻々と姿を変えても、それさえ気づかず、彼女はずっとベッドに腰掛けていた。

真っ暗闇の室内で、いつの間にか日が暮れていた事実をようやっと知って、ゆるゆると顔を上げる。明かりをつけようと机の上をまさぐったその視界の端に、赤が映った。


それは、忍者学校時代、かつていじめられっ子だったサクラにあげたリボンの色。
忍者学校卒業後、対等なライバルとして認めてほしい、とサクラから返されたソレを、いのは未だに捨てられずにいる。


自分の後ろを追い駆けていたサクラ。自分に憧れていたサクラ。
恋敵であり仲間でありそして親友である彼女がサスケの後を追って里抜けしたという事柄は、いのを動転させるに十分だった。
「……サクラ……」

サスケへの恋慕と、里・家族・仲間・全てを天秤にかけ、サクラは前者を選んだのだ。その事実が、いのを苦しめる。
サスケはまだ、わかる。うちは一族の生き残りで家族がおらず、天涯孤独の身である彼はいつも自分達同期とは距離があった。サクラと同じくサスケに恋心を抱いていたが、周囲にあえて馴染まないサスケの心を開くことは出来ずにいた。

七班であるナルやサクラ、そして火影就任において綱手とダンゾウの争い等で少しは接しやすくなったものの、一匹狼で仲間とのなれ合いを嫌っている節はまだあった。
そんなサスケが里を抜けた、との知らせを聞いて奪回メンバーに加わったいのは、心のどこかで少し、納得する面もあったのだ。
里抜けするにおいて、サスケには自分にはあるはずの存在がない。彼の里抜けを引き留めるべき存在、里・仲間を除いての家族だ。


「でもサクラ、あんたは。あんたは違うでしょ…」
サスケに反して、春野サクラは友達も仲間も、そして家族もいる。それなのに、里抜けした。
何も言わずに。親友のいのにさえ、相談すらせずに。



いのは、赤いリボンを凝視する。
その赤に、サクラの顔が思い浮かんだ。
仲間だとライバルだと、親友だと思っていたのは自分だけだったのか。

一晩中、悶々としていたいのの眼を朝日が焼いた。唇を噛み締め、彼女はリボンを引っ手繰るように掴んだ。髪を結んでいた紐を解き、代わりにソレで結ぶ。
美しい日の出を尻目に、いのは金の髪を翻した。窓から射し込む朝焼けの中、金色の髪に結ばれたリボンが大きく主張する。

いのの決意を奮い立たせるかのような、燃えるような赤。



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