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お江戸
第四章

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 その男に二人は後ろから声をかけた、すると男は二人にその肩を落とした雰囲気に相応しくだ、細長い顔を沈ませて応えた。
「お二人は」
「ああ、俺達はな」
 二人はそれぞれ名乗った、そのうえで男に問うた。
「それでどうしたんだい?」
「随分落ち込んでるな」
「俺達にちょっと話してくれるかい?」
 特に太之助が言ってきた。
「何があったか」
「何か、ですか」
「ああ、近くにな」
 吉原のすぐ外も馴染みの場所だ、だから太之助はすぐに言えた。
「朝からやってる店があってな」
「そこで、ですか」
「朝飯を食いながら話すか」
 こう言うのだった。
「そうするか?」
「それでは」
 こう話してだ、そしてだった。
 三人で太之助が言う店に入った、そこは確かに軽い朝飯が出る店で飯と味噌汁それにめざしや豆腐等があった。
 太之助はそうしたものを店の親父に頼んでだ、そのうえで権太と二人で向かい側に座らせた男に問うた。
「で、おめえさん随分落ち込んでるな」
「はい」
 男も否定しなかった。
「どうにも」
「吉原で何があったんでい」
「振られました」
 そうなったというのだ。
「馴染みの花魁さんに」
「やっぱりそうか」
「はい、それで」
 さらに言うのだった。
「もうこうしてです」
「落ち込んでるんだな」
「そうです」
 その通りという返事だった。
「どうにも」
「そうか、やっぱりな」
「店は何処だい?」
 権太は花魁遊びはしないがそれでも問うた、三人で共に朝飯を食べているが男の食う量は倍以上だ。
「それで」
「はい、花蝶といいますが」
「ああ、あそこか」 
 店の名前を聞いてだ、太之助はすぐに言った。
「おめえさんあそこの馴染みだったか」
「そうです」
「あそこもいい娘が揃ってるがな」
 彼も知っている店なので言う。
「しかしあそこは高いぜ、吉原じゃ格のある方だからな」
「銭がありまして」
「それはあってかい」
「馴染みになれました」
「そうかい、そういえばおめえさん随分でかいな」
 ここで太之助は男の外見のことを言った。
「相撲取りかい?」
「はい」
 実際にという返事だった。
「そうです、何とか関取になれました」
「おお、それはいいねえ」
「四股名は濡髪といいます」
「そっちもいいねえ」
「はい、それでなんですが」
 その濡髪はさらに言った。
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