暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜紺色と藍色の追復曲〜
あの時あの場所で
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「………………」

過ぎ去っていく街並みをぼけーっと見ながら、相馬は思う。

―――だからこそ、ずっと思ってた。この世界は醜い。

そうした形で、世界を見れてしまったからこそ、《鬼才》はいかにそこが愚劣で無駄に溢れているということかが分かった。分かってしまった。

たゆまぬ努力を積んだ数学者だろうと、必死に頑張っている物理学者だろうと、そんな人達が打ち立てた偉業を、その偉業を支えた功績を見ても、それが醜悪を極めて、極めて脱力を誘うモノにしか見えなくて。アナウンサーが口角泡を飛ばすような大発見も、死んだ魚のような目でしか見えなくて。

だが、しかし、それでも。

世界にとって幸運だったのは、小日向相馬はそこで、じゃあより良くしようとする人格構成をしていなかったことだ。

野球選手として大成できる器を持つ者が全員、野球の道を志すとは限らない。サッカー選手とか、もしかしたら運動系でもない美術部に入って、そこそこの青春を過ごした後、平々凡々な社会へ埋もれていく確率は決して低くはない。それと同じように、彼自身の眼に世界がどれだけ醜く見えても、その中で生きることを肯定した時点で小日向相馬の価値はそのまま発掘されることなく潰えていただろう。

そう。

彼にだって、守りたいものがあった。

守りたい、ちっぽけな世界があった。ここから先は譲れない、ちっぽけな線引きがあった。

相馬は比喩でも冗談でもなく、それだけで満足していた。その時その瞬間、そこで――――線の内側で完結していた。

こんな核弾頭のような《鬼才(ちから)》などいらない。普通に生きて、普通に働いて、普通に死ぬ、そんなささやかな人生を歩んだほうが何倍も価値がある。

それを臆病という人もいるかもしれない。それを力持つ者の義務を放棄していると蔑む者もいるかもしれない。

だが、相馬はそうしたスタントマンみたいなスリルと興奮に満ち満ちた人生はお望みではないのだ。

今でこそ世界の闇を牛耳る悪の黒幕、というような風評が立ち、実際そういう行動をしている自覚のある小日向相馬という『人間』を分解したら、おそらくそこら辺に転がっている凡百の者達と変わらない。

ホラー映画は怖いし、ゾンビ物は普通に気持ち悪くなる。血を見たら貧血を起こすし、病院の予防注射だってやりたくない。歯磨き粉はいまだに付けない派だし、犬か猫と聞かれれば犬だ。

それくらい。

《鬼才》というモノがあったって、小日向相馬という人間は本来はその程度だったのだ。

面白い面白くないかと言われれば、ほぼ百パーセント反応に困られる気がする。学校でも進んで人と関わろうとはしなかったし、ぶっちゃけ友達や親友という単語ともそんなに縁があるほうじゃない。

相馬は窓枠に頬杖をつく。


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