暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜暗躍と進撃の円舞〜
掃討
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「んだよ、領主っつったってこんなモンかよ」

大の字に転がっているファナハンの耳に、そんな軽い言葉がかけられた。

HPは減らない――――つまり、システム的に不死であるファナハンら幹部の攻撃は、とうとう彼女達の珠のような肌に傷一つ付けることは叶わなかった。

もっと言えば、彼女達のHPバーを一ドットすら削ることすらできなかった。

運動系の神経を過剰に使った反動か、泥のような倦怠感を身体中に感じながら、領主の男は荒い息を吐く。

「く、そッ!それが……お前の、システム外、スキル…かよ。ッ、チーターが……!」

「人聞きの悪ぃこと言うなよ。これは別に、レンの《地走り》みたいにシステムの穴をついて特別なことをしてるんじゃない。ダンスやバスケットボール……様々な分野の、いいところだけを抽出してきてごった煮にしたような、れっきとした技術だ」

彼女はタバコでも吸っているかのような長い呼気を吐き出す。

「弱者であることを肯定して、その上で自分を磨き上げていった結果だよ」

「……ッ」

思わず奥歯を噛みしめる男は、そこで巫女装束の闇妖精(インプ)の向こう側から姿を現した長身の猫妖精(ケットシー)に気付く。

秋の紅葉を思わせる長髪から伸びるのは、ケットシーに多い正三角形の耳より少し長い、狐を想起させる二等辺三角形。

持ち主の機嫌の良さを思わせる長い尻尾は、ゆったりとした調子で空を切っていた。

狼騎士(フェンリル)隊副隊長、ヒスイは口を開く。

「終いやで、領主君。こっからは感情やのうて理屈の世界や。あんさんも長やっとるんやから、単純な足し算引き算は分かるやろ。あんさんらがこうまでコテンパンにされたんや。あてがここまで無事に入れたことから分かる通り、もうケットシーに抵抗する意思を持つ輩は一般のスプリガン連中からは出んよ」

「…………クソッ、タレ」

負けた。

それも、最悪な形で。

絶望というのも生ぬるい。上に立つ者としての責任感に、ギシギシと身体ではなく心を軋ませるファナハンに、しかしヒスイは更なる言葉を吐き捨てるように言った。



「まぁ、まだ終わらせんがな」



「………………ぁ?」

その声を発したのは、ファナハンではなかった。

傍らに突っ立ち、後頭で手を組んでいた土妖精(ノーム)の女性だ。眉を顰める彼女を放って置き、狐耳の麗人はくすくすと突き刺すように嗤い、無言で首を巡らせた。

その切れ長の双眸が映すのは、ジッグラト天頂に浮かぶ、選挙票数の推移を示す長大なホロウインドウだ。

票数で言えば、完全に勝敗は決している。

ケットシーが送り込んできた大量のサブアカウントが投じた票の数が、ファナハンの次期領主権を泡沫の夢の如く流し去っていた。

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