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疫病
第四章

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「その余を焼き殺すというのだ」
「そうした決まりです」
「法ですから」
「法は守らねばなりません」
「必ず」
「では今よりです」
「酷い黒死病に罹った者を焼き殺します」
 こう言ってだ、家臣達はすぐに病で動けない子爵を外に床ごと放り出させてだ。黒死病に罹った者を連れ出す荷車に乗せてだ。廃家に連れて行かせた。廃家ごと焼くつもりだ。
 だが連れて行かれる中でだ、子爵は道の左右に集まり彼を見ている民や兵達に言った。
「余を助けるのだ、余は領主だ」
「いえ、それは違います」
 だが彼を連れて行く家臣の一人が領主に言った。
「貴方は黒死病に罹りました」
「主だぞ」
「黒死病に罹った者が民でないのならです」
 それならというのだ。
「領主もまた同じです」
「その様なことがあるものか」
「あります、貴方が決められました」
 家臣の言葉は冷たい、その目も。
「黒死病に罹った者については」
「誰か助けるのだ」
 子爵は家臣に言われても諦めなかった、そしてだった。
 民や兵達に助けを求めた、だが。
 彼等もまた冷たい目で見るだけだった、彼を。そうして。
 子爵は廃家に放り込まれた、床も一緒に入れられたが。
 扉には釘が打ち付けられ窓もそうされた、絶対に出られない様にされて。
 廃家に火が点けられてだ、彼は燃える家の中でもがき苦しんだ。火の熱さと煙によって。だがそれでも言っていた。
「誰か、誰か助けるのだ」
 しかし誰も来ない、そうしてだった。
 声は聞こえなくなりだ、家は紅蓮の炎に包まれた。家が完全に燃え落ちたその後でだ。子爵に子がなかったので彼の弟が領主となった。
 新しい領主はその座に座るとすぐに言った。
「医者を多く呼ぶのだ」
「そうしてですね」
「そのうえで、ですね」
「黒死病に対する」
「そうされますか」
「そうだ、すぐにだ」
 まさにというのだ。
「優れた医者を何人も呼んでだ」
「そうしてそのうえで」
「罹っている者を救うのですね」
「そうするのですね」
「何とか助けるのだ」
 罹っている者達をというのだ。
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