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安い生命だが
第六章
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「それが一人だけでもな」
「その一人にはなりたくないな」
「絶対にな」
「それは俺もだよ」
 ブルームもこう返した。
「死んでたまるか」
「生きて帰りたいな」
「ああ、絶対にな」
「テキサスに彼女が待ってるんだ」
「俺はフロリダにだよ」
 それぞれの故郷のことも話した。
「新婚なんだよ」
「じゃあ余計にだな」
「ああ、生きて帰りたいさ」
「数字のことじゃなくてな」
「俺自身が生きたいんだよ」
 ブルームの言葉も切実なものだった。
「偉いさんがどう思おうともな」
「そういうことだな、早く終わって欲しいな」
「全くだぜ」
 戦争についてもこう話す、そして戦争は進み遂にドイツが降伏した時に二人はまだ生きていた。ドイツが降伏し欧州での戦争が終わったと聞いたのは基地での防火訓練の後だったが。
 そこで欧州でのアメリカ軍の戦死者と他国の戦死者の数を聞いてだ、二人は苦笑いになって口々に言った。
「少ないな」
「ああ、総数も各国の人口の割合でもな」
「アメリカの犠牲は少ないな」
「些細なものだぜ」
「しかしその戦死者の中に俺達がいなかった」
「そのことが一番よかったぜ」 
 何といってもというのだ。
「少ない犠牲の中にな」
「入ってなくてどれだけよかったか」
「それだけで最高だぜ」
「勝ったこと以上にな」
 戦死しなくて済んだ、このことが何よりもというのだ。
「これで太平洋での戦争が終わったら完全に終わりか」
「そっちももうすぐらしいしな」
「これで晴れて生きて帰れる」
「生きてな」
 二人共生き残っていることを強調した。
「これ以上にいいことがあるかよ」
「死ななくて済んだな」
「じゃあアメリカに帰ったらな」
「凱旋だぜ」
 二人共今度は笑って話した、そしてだった。
 生き残ったことを喜んでだ、アメリカに帰った。だが。
 その祖国ではだ、ルーズベルトの次に大統領となったトルーマンが陸海軍の将軍達に戦争での犠牲者のことを聞いて言った。
「よかったな」
「はい、犠牲は四十万で済みました」
「他国に比べれば驚く程少ないです」
「そのうえで戦争に勝ちました」
「これ程いいものはありません」
 将軍達も口々に言う。
「日本も降伏しました」
「日本本土での戦闘はせずに済みました」
「若し本土での戦いとなればとんでもないことになっていました」
「恐ろしいだけの犠牲が出ていました」
「そうだな、四十万で済んだ」 
 トルーマンは落ち着いた声で述べた、大統領の椅子に座ったうえで。
「満足すべきだ」
「全くです」
「我が国は最低限の犠牲で最高のものを得ました」
「勝利と国益を」
 この二つをというのだった、トルーマンも彼等も戦争の勝利と僅かな犠牲で済んだことを喜んでいた
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