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眼鏡っ子は筋肉がお好き
第六章
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 そして彼もだ。今こう言うのだった。
「おかしなことになりそうだったらね」
「喧嘩をするよりも」
「そう。そんなことしても何にもならないからね」
 それでだというのだ。
「そうした時は走るよ。一気にね」
「走れば逃げられるの」
「体力には自信があるんだ」
 伊達に鍛えられた身体をしている訳ではないというのだ。
「それでね。けれどね」
「けれどって?」
「池辺さんが一緒だとね」
「私が一緒だと」
「そう。女の子、これは誰でもだけれど」
 健太郎は広い視点で話す。それは背が高いから見えているものではなかった。より広い視点での言葉だった。
 その視点でだ。彼は言うのだった。
「誰とも一緒だとね。その時はね」
「ああするのね」
「さっきみたいにね。するんだ」
「ううん、それでなの」
「そう。そうしているんだ」
「成程ね」
「そういうことだよ。じゃあね」
 服は既に整えている。そしてだった。
 その彼を見てだ。亜美はこう言ったのだった。
「そうね。筋肉っていうのは」
「筋肉?」
「脳筋じゃなくてね」
 俗に言われる言葉だ。あまりにも極端に体育会系の精神、思考の構造であるが故に普通の思考ではなくなっている人間のことだ。
 亜美はこれまで筋肉ばかりを見ていた。それでもだったのだ。
「本当の筋肉っていうのは」
「筋肉は?」
「身体を鍛えるだけじゃないのね」
「?どういうこと?」
 健太郎は自分ではわかっていなかった。亜美にそう言われてもきょとんとした顔になる。だがその彼の顔を見てだ。
 亜美はにこりと笑ってだ。今度はこう言ったのだった。
「いいの。それでだけれど」
「それでって」
「今度の日曜もね」
 亜美から誘ってきた。今度は。
「何処か行かない?」
「今度は何処にかな」
「若林君の行きたいところにね」
「そこになんだ」
「そう。案内して」
 筋肉のある場所ではなくだ。彼の好きな場所に行きたいというのだ。
「そうしてくれるかしら」
「いいんだ、僕の案内する場所で」
「そうしてね。それじゃあね」
「それでよかったら」
 温和な笑みでだ。健太郎も応えた。 
 亜美は健太郎のその顔を見上げてそして笑顔で頷いて答えた。
「お願いね」
「うん、じゃあね」
 二人で笑顔で言い合う。亜美はこの時新たなことがわかった。本当のことと言っていいかも知れない。
 そのうえでだ。この日はそれからも二人で並んで歩いた。そしてこれからも二人で歩こうと心の中で思う亜美だった。


眼鏡っ子は筋肉がお好き   完


                    2012・7・
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