第四章
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「観る場所もないし」
「それじゃあだね」
「寝ようかしら」
こう彼に答えた。
「もうね」
「そうするんだ」
「それか私は私で飲むか」
彼とは別にだ。
「お風呂に入るか」
「そうするんだね」
「そうしようかしら」
空虚な気持ちのままの返事だった。
「夜は」
「そうするんだね」
「ええ、夜はね」
「それじゃあそうしたらいいよ」
これが彼の返事だった。
「僕は僕でね」
「そうするからなのね」
「好きにしたらいいよ」
「ええ、そうするわね」
海老と他のお料理、お酒を二人で楽しんでいても話すことはこうしたものだった、そして二人共自分達がそれぞれ言った通りにして。
お休みと言い合って寝た、旅館の人が敷いてくれたそれぞれのお布団に寝て朝まで寝た。
朝御飯を食べてそのうえで旅館を後にして鎌倉から東京まで帰った、東京駅を出てそれからだった。
二人は手を触り合って、最後の言葉を言い合った。
「さようなら」
「さようなら」
二人でこの言葉を言い合って別れた、それで終わりだった。
何もかもが終わって暫く、二ヶ月程経ってからだった。
私は働いているオフィスでだ、ふとだった。
あの旅行のことを思い出してだ、一緒にいた同僚にこんなことを言った。
「また鎌倉に行こうかしら」
「急に言ったわね」
「少しね」
その同僚に顔を向けて答えた。
「思ったの」
「そうなの」
「時間があれば」
また忙しくなっていた、忙しくなかったのは本当にあの時だけだった。
「行こうかしら」
「鎌倉ね」
「前にも行ったけれど」
その二ヶ月前にだ。
「それでもね」
「また行きたいのね」
「懐かしくなったから」
その二ヶ月前の旅行がだ。
「また行きたいわ」
「じゃあ時間が出来たら」
「また行って来るわ」
「そうなのね、じゃあね」
「また行って来るから」
「楽しんできてね」
「今度はそうしてくるわ」
あの時はどうしようもなく空虚で味気なかったけれど。
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