238部分:炎の継承者その二
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炎の継承者その二
「ファラフレイム・・・・・・」
「そうです。ファラフレイムは貴方が来られるのを待っていたのです」
サイアスが言った。
「新しい主を」
「新しい主・・・・・・」
アーサーは彼の言葉を繰り返した。
「さあ早くお取り下さい。その時新たな光が貴方を包むことでしょう」
「光・・・・・・」
アルヴィスの遺体の前に進み出た。ファラフレイムはその胸の上に静かに置かれている。
手に取ろうとした。だが手に取れなかった。取ってはいけない、そう感じた。
神器は己を持つべき者を選ぶ。自分には持つ資格がないと思った。ファラの再来とまで謳われた叔父アルヴィスでさえその罪により見放された。神器の中でも特に誇り高いのだ。自信が無かった。自分も見放されるのではないか、と考えた。
“大丈夫だ、己を信じよ”
不意に誰かの声がした。祭壇の方からだ。アーサーがそこに顔を向けると彼がいた。
「叔父上・・・・・・」
アルヴィスがいた。だが実体ではない。祭壇の中に透けて宙に立っている。零体であった。
“そなたには神器を扱うに足る素晴らしい力がある。私などよりもな”
「しかし・・・・・・」
アーサーはそれでも躊躇った。まだ決心がつかない。
“アーサー、わかっている筈だ。今大陸がどの様な状況なのかを”
声が厳しくなった。叱っているのではない。説き聞かせる様な声だ。
“それは全て私が招いてしまった事。私が貶めてしまったヴェルトマーの誇りを取り戻せるのはもうそなただけなのだ”
「・・・・・・・・・」
アルヴィスは一言置いた。そして続けた。
“我がヴェルトマーの炎の紋章をもう一度正義の紋章とする為に・・・・・・。アーサーよ、ファラフレイムを受け取ってくれ。そして私の身体をその炎で灰も残さず焼き尽くしてくれ”
「えっ、しかしそれは・・・・・・」
アーサーはその言葉に対し驚愕した。サイアスとフェリペに顔を向ける。二人はそれに対し顔を俯けて頷いた。
“私は今まで罪を重ね過ぎた。最早ヴォータンの治めるヴァルハラにもドンナーの治めるニブルヘイムにも行けぬ。当然ヘルの国にもな”
それがどういう意味かわからぬ者はユグドラルにはいなかった。
“ローゲの支配するムスペルムでこの魂を永遠に焼かれるのみ。その私にとって現世に身体を残すのは何よりも耐え難いのだ。・・・・・・頼む”
それを聞いてゴクリ、と喉を鳴らした。額から汗が零れ落ちる。最早恨みも憎しみも無い。以前ならば躊躇無くファラフレイムを手に取り罵りつつ身体どころか魂まで焼き尽くさんとしたであろう。
だが今は違う。目の前にいる叔父は自らの分身とも言えるものを自分に託さんとしているのだ。
辛かった。手を動かそうにも指が動かない。何か強烈な暗示にかかたかのようだ。
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