236部分:炎は燃えてその五
[8]前話 [2]次話
炎は燃えてその五
「はい。あの男が例えファラフレイムを手にしていてもセリス様に勝てはしなかったでしょう。それはあの男自身が最もよくわかっている筈です」
「それを知ってのうえであえて一騎打ちを挑んだか。哀しいな」
「はい・・・・・・」
セリスの剣は一振りごとに速くなるそれに対しアルヴィスは序々に弱まってきた。セリスは動いた。
間が空いたのを見計らうとアルヴィスの懐へ滑り込み剣を右脇から左肩へと一閃させた。
次に剣を乱れ振りもう一撃縦に一文字に振り上げるとそのまま後ろへ跳び退いた。そして前へ前転しつつ跳躍すると下へ一撃を繰り出した。
セリスがアルヴィスの前後に二人いるように見えた。それは残像だった。次の瞬間には横一文字に斬り抜きアルヴィスの背を通り抜けていた。
アルヴィスの剣が回転しつつ高々と天に上がっていった。その剣は地に刺さると粉々に砕け散った。
アルヴィスの全身から血が噴き出した。忽ちその全身が紅に染まり辺りを鮮血の海とした。
ゆっくりと後ろに倒れていく。急激に意識が薄れていく。
その薄れていく意識の中アルヴィスは今までのことを思い浮かべていた。
「父上・・・・・・」
幼い頃どれだけ父を憎んだだろう。だが今は憎しみは無い。ただ素直に受け入れていた。
「母上・・・・・・」
自分の下を去った母。どれだけ愛しい存在であったか。今でもそれは変わらない。何時までも。
「卿等・・・・・・」
十一将が浮かんできた。長い間苦労を共にしてきた。有り難く思っている。死なせてしまった。滅びるのは自分だけで良かったというのに。
「ディアドラ・・・・・・」
妻であり妹であった。それでも愛した。その愛に偽りは無かった。だが二人の愛は砂上の楼閣であり演出されたものであった。その結末も。
「ユリア・・・・・・」
敵の子、だが自分の娘だ。そう思っている。今でも。だがもうその身は他の者、いやセリスに任せるしかない。自分に力がない為に。
「アゼル・・・・・・」
母は違えどたった一人の弟だ。何があっても最後まで共にいると思っていた。袂を分かっても何時か戻って来ると思っていた。だがその時は永遠に来なかった。
「私は所詮道化でしかなかったな・・・・・・」
アルヴィスは自嘲した。自分は何一つ出来なかったし誰も幸福には出来なかった。彼が最後に思ったのはそれだった。
「何という愚かな男だったのだ」
そして息絶えた。
セリスは歓声の中倒れたアルヴィスを見た。勝った。仇は取った。だが喜びは無かった。虚しさだけが心に残っていた。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ