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ありがとう
第三章

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「あんないい人はいないでしょ」
「ええ、会社の人もお家で言ってるわね」
「花には蝶が寄るものよ」
 こんな言葉もだ、侑奏はまりあに話した。
「いい人のところにはいい人が来てくれるの」
「だからなの」
「そのままありがとうって言っていくの」
「感謝の気持ちをいつも」
「持っていてね、そうすればね」
「私もいい人に出会えるの」
「お父さんみたいにね」
 こう娘に話した、にこりと笑って。
「そうなるわ」
「わかったわ。教えてくれてありがとう」
 まりあもにこりと笑って母に言った。
「今日教えてくれたこと忘れないから」
「早速ありがとうって言ったわね」
「あっ、そうね」 
 言われてだ、まりあは明るい笑顔になって返した。
「ありがとうって」
「そのままでいてね」
「ずっとありがとうってね」
「言っていってね」
 感謝の気持ちを忘れるなというのだ、そして実際にまりあはありがとうと言っていった。まりあを嫌う者は殆どいなかった。
 だが人はどうしても好き嫌いがあるものでそんなまりあを嫌う者もいた、それは二年の時のクラス委員の赤江翔平だった。 
 長身で痩せた顔をしていて身体つきは逞しい、気が非常に強くリーダーシップを発揮するタイプでそれでクラス委員にも選ばれた。部活は野球部で二年生ながら四番エースだ、成績は中の上だが運動神経は抜群だ。
 その彼は誰もがいい人と言うまりあについて男のクラスメイト達に言った。
「俺はあの娘はな」
「嫌いか?」
「そうだっていうのか?」
「合わないな」
 こう言うのだった、難しい感じの声で。
「どうもな」
「個性全然違うしな」
「御前どんどん前に出るタイプだからな」
「皆も引っ張って」
「そうしたタイプだからな」
 温和であまり前に出ないまりあとは、というのだ。
「それでか」
「あの娘とはか」
「どうにもか」
「ああ」 
 実際にというのだ。
「どうもな」
「それは仕方ないか?」
「人には相性あるからな」
「相性が合わないと仕方ないしな」
「どうしてもな」
「ピッチャーでもそうだよな」
 クラスメイトの一人が翔平の部活のことを例えに出した。
「相性あるよな」
「キャッチャーとな」
「それあるよな」
「だから羽生田さんとはか」
「合わない感じがするか」
「おっとりし過ぎだろ」  
 翔平はまりあのこの気質を言った。
「動きがとにかく遅いんだよな」
「それはそうだな」
「おっとりタイプにしてもな」
「あの娘かなりな」
「動きは遅いな」
「それでどうもな」 
 眉を少し顰めさせてだ、翔平は男の友人達に言った。
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