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SNOW ROSE
廃墟の章
V
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 その夜のことである。いつになくハインツの店“ブルーメンシュトラオス”亭は、多くの客でごった返していた。マーガレットとミヒャエルの二人が客として来たこともあるが、どういうわけか街の住人たちも夕食に多数来店していたのである。
「ハインツさん?もしや私共のことを…。」
 あまりの客入りにエディアが宿の主に問うと、ハインツは申し訳無さそうに顔を掻きながら答えた。
「すいません…。いつも食事に来てくれるお客さんについ…。」
 ハインツの気持ちも分からなくはないエディアは、ヨゼフへと苦笑混じりに提案した。
「ねぇ、あなた。マーガレットさんもミックさんも、折角のご縁で来て下さったんですもの。皆様にお聞かせしましょうよ。」
 そう言われたヨゼフは髭を指で撫でながら、少しの間考えた。そして何か思い付いたように微笑むと、エディアとハインツを見て答えた。
「そうしよう。だが折角のことでもあるし、主のハインツさんにも加わって頂くのはどうだね?」
 いきなり自分の名が出たハインツは、目をぱちくりさせていた。まさか自分を指名されるとは考えていなかったのである。そこてハインツは断りの言葉を告げようと口を開きかけたとき、なぜか料理人のベルディナータに遮られたのであった。
「ハインツさん。いつも練習してるんだろ?折角のお誘いだし、やってみたらどうだい?」
 何ともざっくばらんな言い方だが、いつも遠くから練習している音が漏れ聞こえていたベルディナータは、ハインツがどれだけ熱心だったのかを知っていたのである。そのベルディナータの声をホールの客が聞きつけ、「是非とも聴きたい!」との声が上がったため、ハインツは引くに引けない状態になってしまった。
「では…数曲でしたら…。」
 ハインツは深いため息を吐きながら言った。もう諦め半分と言った具合であった。
 丁度その時、裏口の扉が開かれ、そこからマーガレットとミヒャエルが入って来たのであった。見ると、ミヒャエルは手に何か大きな物を抱えており、それはハインツがよく見知ったものであったのである。
「持ってきて頂いたんですか!?」
 それは小型のクラヴィコードであった。当初はチェンバロを運び込むつもりだったのであるが、店内への入り口が狭いため、このクラヴィコードにしたのである。
「狭い場所だし、このクラヴィコードでも音量は充分じゃないかしら?あなたが音楽をやってるってベルディナータさんから聞いたから、折角レヴィン夫妻がいらしてるんだもの…是非とも聴いてみたくて勝手に持ってきちゃったわ。」
 さすがは侯爵の娘と言わざるを得ないであろう。言われて楽器を運んできたミヒャエルは勿論のこと、その場にいた者は皆、諦めたように苦笑いするしかなかったのであった。
 いつの時代もそうであるが、楽器の値は高い。それ故、庶民が音楽を聴けるの
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