暁 〜小説投稿サイト〜
艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十七話 眠れない夜を抱いて
[2/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
のですよね。」
「えっ?」
「ああ、違います!!悪い意味ではなくて・・・気を悪くされたらごめんなさい!」
大鳳は頭を下げた。
「でも、紀伊型は前世ではほとんど机上だけで終わってしまった幻の戦艦なんです。それをこの現世でこうして生まれ変わって・・・・しかも全く新しい姿になって・・・それがとても感慨深いと思ったんです。」
「・・・・・・・・。」
紀伊は目を伏せてしまった。そういえば、艦娘たちには自分の本当の出生をまだ話していなかったのだ。自分は紀伊型などという艦種を名乗れる立場ではなく、ただの生体兵器なのだから。
「何か、お気を悪くされましたか?」
「・・・・いいえ、大丈夫です。」
「大丈夫じゃないよ。顔色が悪いもの。大鳳、悪いこと言っちゃだめだよ。」
「ご、ごめんなさい!!」
蒼龍の言葉に大鳳が謝った。
「違うんです。・・・・そうですね、知っていただいた方がこの際いいのかもしれません。」
不思議そうな顔をする3人に、紀伊は自分の生い立ちを隠さずに語った。
「そっか・・・・。」
飛龍が一言そう言ったきり黙ったが、すぐ顔を上げて、
「私なんかがいろいろ言う資格はないけれど、紀伊、辛かったろうね。」
憐れみかと並の人間なら思ったのかもしれないが、飛龍の人柄を知っている紀伊はそれが心から思った言葉であるとわかっていた。
「いいえ、もう受け入れることはできました。でも、一時期はつらかったです。それでも、これまでずっといろんな方と話をしていて、私なりの生き方がわかった気がします。」
「生き方?」
「はい。」
紀伊は折から上ってきた太陽に顔を向け、眩しそうに目を細めた。
「皆さんには過去があります。前世があります。とてもうらやましいことだと最初は思っていました。でも、時として前世はとてもつらいことだとおっしゃった方がいました。」
あの呉鎮守府で、赤城がとてもつらそうにして語った過去を紀伊は忘れることができなかった。
「過去は捨てられない。前世もです。そういうことを踏まえて、私は今を、前を向いて精一杯生きようと、そう誓ったんです。私の道は私が作る。紀伊型と言われていますけれど、前世にとらわれない、本当の、今この世での私の道を、これから・・・・・。」
「そして、未来もだよ。」
飛龍が紀伊の隣に立った。
「明日は必ず勝って、ここに戻ってこよう。ここに戻ってきたとき、本当の意味での私たちの進むべき道が、待っているはずだから・・・・。」
蒼龍も、大鳳も隣に立った。紀伊は不思議な気分を覚えていた。なんというか、いついつまでもこうして3人とここに並んでいたい。本来ならミッドウェー本島を攻略して再びここに立つことこそがすべての終焉なのだが、なぜかこのとき、紀伊はそう思っていた。
「はい、必ず・・・・。」
紀伊はうなずいた。


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ