暁 〜小説投稿サイト〜
SNOW ROSE
乙女の章
Y-b.Largo(Actus tragicus)
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
の造花であった。
 白き薔薇はこの世に存在しないが、神の愛の象徴として炎と共に受け継がれていた。だが、白き薔薇だけは王家にのみその使用が認められていた。
 これを王が手渡す者は側近として認められた証でもあり、死者に贈られるというのは異例なことでもあった。
 こうした中でも、葬送音楽は鳴り響いて礼拝堂を満たし、大司教が聖文を読み上げる声が音楽に溶け込んでいた。
 葬送ミサが終わり、音楽は最後のコラールとなったが、そこで大司教を驚かせることとなる。
 演奏されたコラールは声楽を奏者が分担して歌われたが、歌詞も曲も全く違っていたのである。
 通常は“憩え、愛されし者よ”の題名で知られるコラールが奏でられるが、ここで歌われた歌詞は“神よ、悲しみを消し去りたまえ”であり、歌詞自体が知られてはいない。その上、音楽までもが今までに無い斬新なもので、前奏・間奏・後奏が付け加えられたものであった。
「これは…!」
 あまりのことに大司教は言葉が出なかった。
 そのコラールは美しく、当時としてはあまり使用されない三連符が散りばめられ、恰も揺りかごの如き印象を受けた。
「よもや…新しき歌が…。」
 横で王が感嘆しながら呟いたのであった。
 このコラールは残念なことに断片的にしか伝えられてはおらず、肝心の前奏と後奏、そして歌詞の一部が欠落しているのである。無論、原譜は完全に失われている。
 さて、この後にゲオルク神父は神の丘に近い森の中へと埋葬され、その場所が彼の永久の憩いの場所となった。
 しかし、この出来事がまさか歴史を変える第一歩であったなど、一体誰が考えられたであろうか?
 必然か、それとも偶然か…。この二人が出会わなければ、もしかしたら別の歴史があったのかも知れない。

 いや…、これは神の決め事なのである。





[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ