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もう一人の八神
新暦79年
覇王襲来
memory:28 覇王と影
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夜の街に影二つ。
ノーヴェと謎の女性が対峙した。

「貴方にいくつか伺いたい事と……確かめたい事が」

街灯の上に佇む女性の顔はバイザーに隠れて見ることができない。

「質問すんならバイザー外して名を名乗れ」

「失礼」

街灯から着地、謝罪、バイザーを外す、を一連の動作で行う女性。

右目が紺、左目が青の虹彩異色の瞳、それに加え碧銀の髪。
それらは古代ベルカの王の一人の特徴と酷似していた。

「カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いています」

覇王……それを聞くなり、ノーヴェの頭にチンクと悠莉の言葉が脳裏によぎった。

「……お前が噂の通り魔か」

「世間ではそう呼ばているのですか」

そう受け取っても構わないといったように答えるイングヴァルト。

「先ほど申した伺いたいことは、"王"達についてです。聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリア」

イングヴァルトの放つ言葉にノーヴェはピクリと反応したが、自身の中に留めようとした。

彼女が言うように、ノーヴェはその二人のことを知っている。
それに数時間前に一緒にいた。 

だが……

「知らねえな」

なんせ、ノーヴェが知る二人は、

「聖王のクローンだの、冥王陛下だのなんて大層な連中と知り合いになった覚えはねえ」

いつだって前向きで、なんにでも一生懸命な少女。
初めてできた家族に、兄に十分に甘えている少女。

「あたしが知ってんのは、今を一生懸命生きてるだけの普通の子供達だ!」

うちに溜めた怒りを乗せ、啖呵を切るように叫ぶ。

「―――理解できました。その件については他を当たるとします」

イングヴァルトは一つ頷いた。
ただ、ノーヴェの言葉をどう理解したのかは表情からは読み取れない。

「ではもう一つ確かめたい事は……」

自らの拳を胸元で固く握りしめ、構えた。

「あなたの拳と私の拳、いったいどちらが強いのかです」

そのまま真っ直ぐノーヴェを見つめ返した。

一瞬、相手にしないことを考えたが、それは振り払い、自称覇王を観察する。
体つきや構えと重心、そして事前に持つ覇王の情報。

「(ち……やっぱりそれなりの実力をもってやがる。あたしでもちとキツイか)」

そう判断して舌打ちするが、ノーヴェは頭を切り替えて気持ちを落ち着かせる。
そしてポケットを漁って愛機を取り出し、

「ジェットエッジ」

バリアジャケットを展開した。

「ありがとうございます」

「自分とあたしの拳のどちらが強いのか知りたいと言っていたな。お前が襲ったやつらもその理由でやたのか?」


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