暁 〜小説投稿サイト〜
冷えたワイン
第二章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「パスポートもあったし」
「じゃあ行けばよかったじゃないか」
「行くつもりだったわよ。けれどね」
「けれど?」
「あんたがね。お姉ちゃんに頼まれて」
「で、叔母さん俺と一緒になったんだ」
「叔母さんじゃないわよ。私まだ二十六よ」
 麻里奈はむっとした顔になって少年に返した。
「夏休みにどっか行くのなら連れて行けって言われえ」
「そうそう。今父ちゃんと母ちゃん忙しいからね」
「お店ね。コンビニ」
「コンビニって夏休み忙しいんだよ」
「学生がしょっちゅう来るようjになるからよね」
「で、二人共旅行になんてとても行けなくてさ」
「私が連れて行けって言われたのよ」
 旅行に行くのならと。それで麻里奈は今彼と共にいるのだった。
 麻里奈にとって甥にあたる彼の名は内山博之という。中学二年で野球部にいる。背は麻里奈より十センチは高い。まだ成長期だが背はかなりのものだ。
 野球をしているだけあって痩せてしっかりとした身体をしている。日に焼けた明るい顔をしている。
 その彼が今自分の横で焼きそばにサイダーを飲み食いしているのを見ながらだ。彼女は言うのだった。
「どうせならって」
「で、俺と一緒にいると」
「そうよ。しかもニースじゃなくて」
 今度は家族や学生達が楽しむ砂浜を見ながら話す。
「湘南じゃない、湘南」
「海だよな」
「海は海だけれどニースじゃないじゃない」
「バリバリの日本だよな」
「そう。ニースが消し飛んだのよ」
「よくあることじゃないの?こういうことって」
「あのね。私はニースに行きたかったのよ」
 缶ビールを一本飲み干した。そしてだ。
 クーラーボックスを開けてもう一本冷えたそれを出してまた飲む。見れば麻里奈の足下には空になったビールがもう六本も転がっている。その中でだ。
 彼女は飲み続ける。そのうえで言うのだった。
「飲むのだって冷えたね。最高級の白ワインで」
「贅沢だよな」
「そうよ。思い切って贅沢なバカンスを楽しむつもりだったのよ」
「それがこうなったんだ」
「ビールよ、缶ビール」
 飲みながらだ。麻里奈は甥に顔を向けて赤くなっている顔で言う。
「全然違うじゃない」
「同じ酒だからいいじゃないか」
「全然違うわよ。折角新しい水着だって用意したのに」
「それで何で泳がないんだよ」
「お酒飲んで泳いだら死ぬわよ」
 見れば目が座っている。既にだ。
「実際にそれで死ぬ人も多いから」
「だから泳がないのかよ」
「そう。飲んでるのよ」
 理由はそれだった。
「こうしてね」
「やれやれだよな。というか砂浜で飲むのもなあ」
「自棄酒よ、自棄酒」
 声も荒れていた。
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ