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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第八話 武田旧臣の仕官
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口調で注意してきた。彼の言うことは最もだな。
 稽古中だから問題ないが戦場で考え込んでいるところを襲われたら間違いなく死ぬ。

「肝に銘じておく」

 俺は神妙な気持ちで柳生宗矩に頷き返事した。柳生宗矩が俺の家臣になる時に「お前と私は君臣の関係だが問題があると思う部分は気兼ねせず注意してくれ」と頼んでいた。お陰で自分では気づかない点を知ることができ彼には感謝している。
 対して柳生宗章は護衛役として俺の稽古を離れて見ている。相変わらず仏頂面で何を考えているか分からない。ただ、俺の護衛役という役目は理解しているのか、つかず離れず俺の側近くにいる。

「五郎右衛門、たまには剣の稽古をしてくれないか?」

 俺は徐に柳生宗章に声をかけた。柳生宗章は動ずることなく「拙者は修行中の身。人に剣を指南する器量はござらん」と短く答えた。予想した通りの返事だった。何度か折りを見て頼んでみているがこんな感じで相手にされない。俺みたいな剣習いたての小僧は相手にできないんだろう。
 しかし、柳生宗章は何を考えているのかわからない。熊のようなでかい図体で他者を威圧するような雰囲気をまとい、その上に口数が少ないため話をかけずらく他人を寄せ付けない。俺の知る人間の中で「孤高」という言葉がこれほど合う人間はいない。
 ただ、俺の知る柳生宗章についての歴史は少ない。だが、その情報を総合すると、彼は受けた恩義には命を懸けてでも報いる義侠心篤い人物だと思う。だから、彼は護衛役としては適役だと思っている。

「兄上、何度も殿が頼んでいるのです。一度くらい相手をされてはいかがです」

 柳生宗矩が兄、柳生宗章、をたしなめる様子を見ながら、この兄弟は対照的だなと思った。柳生宗矩は柳生宗章と違い社交的な性格だ。それに目上の者には忠実で空気も読めて気をつかえる。組織で出世するのは柳生宗矩だと思う。
 柳生宗矩の言葉の通り柳生宗章は俺に剣の稽古はつけてくれない。いつも柳生宗章ははぐらかすような返事をするばかりで俺は喉に魚の骨が刺さったような気分だった。

「又右衛門、気にしなくてもいい。五郎右衛門にも考えがあってのことだろう」

 俺は柳生宗矩を制止するが、彼は柳生宗章の態度に業腹のようだ。彼の立場としては俺の言葉を歯牙にもかけない態度をとり続ける柳生宗章の態度が気に食わないだろう。
 柳生宗矩は二百五十石で召抱えたが、その知行から困窮している実家に仕送りをしているようだ。俺の元で食客をして剣術三昧の兄に頭がくるのも頷ける。俺が柳生宗矩の立場なら毎日苛々した日々を送っていることだろう。

「しかし! 殿は何度も兄に」

 俺は柳生宗矩の言葉を遮った。

「気にしなくていい。五郎右衛門が私に指南しないのは私が若輩で剣が技量が未熟だからだろう」
「殿、兄
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