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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百三十二話 捕虜交換(その3)
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なら何処かで帝国の統治に民主主義を取り入れても良いはずだ、それをしないのは何故か……。

「彼は民主主義に関してかなりの見識を持っています。民主主義の欠点も良く知っている。先年の帝国領侵攻では彼に上手くしてやられました。おそらく彼は民主主義に否定的な考えを持っているのでしょう」
そして帝国内でも民主主義を受け入れる勢力は少ないのではないだろうか。たとえ彼自身が受け入れたいと思ってもそれが出来ない可能性もある。

『改革により門閥貴族を潰し、平民の地位と権利を向上させながらかね……、どうも中途半端な感じがするな。どうせなら一気に立憲君主制というのを考えても良さそうだがな。もっともそれは民主主義に馴染んだ我々の考えかもしれんが……』
シトレ元帥が首を傾げ訝しげな表情をした。

そう、彼は同盟市民ではない、帝国臣民だ。平民の地位と権利を向上させる事と民主主義への否定的な考えは矛盾しない。
「おそらく彼が考えているのは国民主権による民主主義ではなく皇帝主権による民主主義なのではないかと私は考えています」

私の言葉にシトレ元帥は困惑を見せた。
『皇帝主権による民主主義?』
「ええ、そうです」

民主主義国家では国家の主権は国民にある。国民の意思を以って物事を決めるのだが、当然同盟では国民全員で討議などは出来ない。そこで間接民主主義の形態である選挙による議会制民主主義が採用されている。国民に主権を与える事で国民の人権を保障し国民の意思を政治に反映させようとしている。

ではヴァレンシュタイン元帥の考えている政治体制とは何か? 妙な表現だが皇帝主権による民主主義としか言いようが無い。主権は皇帝に、但し主権者である皇帝がなすべき事は一部特権階級の利福では無く帝国臣民の人権を保障し、その意思を政治に反映させる事にある。

「要するに主権が皇帝にあるか国民にあるかの違いだけです。目指すところは代わりません」
『うーむ』
私の言葉にシトレ元帥は唸り声を上げた。

「これまでにも無かったわけではありません。名君と呼ばれたマクシミリアン・ヨーゼフ帝などが行なった政治はそれに近かったでしょう。ただヴァレンシュタイン元帥は門閥貴族を政治勢力としては潰しました。より徹底していると言えるでしょう」

『君はそれを受け入れられるかね?皇帝主権による民主主義を?』
スクリーンに映るシトレ元帥が厳しい視線を向けてくる。
「私は……分かりません……」
『?』

訝しげな表情だ、答えなければならないだろう。
「門閥貴族が勢力を失った以上、皇帝主権による民主主義は上手く行くかもしれません。しかし上手く行けば行くほど市民は政治から関心を無くすでしょう。それは危険な事ではないかと考えています」
『……』

「悪政が起きたとき、市民が責める
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