暁 〜小説投稿サイト〜
落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜
番外編 狩谷鋭美の恋路
後編 ヒーローとヴィランのコンビ
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 バカにしているわけでも、哀れんでいるわけでもない。素直に驚いているだけのような声色だった。
 その純朴さに甘えるように、アタシは小さくコクっと頷く。

「そっかー……悪かったな、つい偏見で選んじまって。じゃあ、コーラは俺が飲むよ」

「え?」

「だから、こっちのカルピスはお前にやる。炭酸じゃないから別にいいだろ?」

「えええっ!?」

 ちょ、ちょっと! それって間接キス……!?

 アタシの考えてることなんて気にしていない様子で、船越はサッと自分とアタシの飲み物を入れ替えてしまった。

 そして自分は何の苦もなしにコーラをグイグイ飲んでいる。アンタねぇ、ちょっとは意識したらどうなのよ!

 ……で、アタシはというと。カルピスの缶を手に、固まるばかりだった。
 前に病院で直接キスをしたことはあるけど、あの時はホントに勢いだけだったし、今の心境だと間接キスでも勇気がいる。

「船越の……カルピス……」

 だけど腹を括って、頭のスイッチを入れてしまえば、後は前進あるのみよ。

 ――きっと、今のアタシはとんでもなくとろけた顔をしてるに違いない。

 気がつけば、アタシは船越が口を付けた部分を舌でなめ回しながら、アイツが飲んだカルピスの味を享受していた。

 そして、アタシは思い切り幸せな顔でゴクッと「船越の」カルピスを飲み干してしまう。

「あれ、ちょっと垂れてるぞ」

「えっ? 垂れてる?」

「ほら、顔貸してみろ」

 すると、船越は掌でアタシの頬を覆うようにして、アタシの首を自分の方に向けてきた。

 どうやら、「船越の味」に夢中になりすぎたせいで、口元にカルピスの水滴が垂れていたらしい。

 船越は持っていたハンカチで、アタシの口元から白い液体をサッと拭き取ってしまう。

「……舌でペロッと舐めてほしかったな」

「え、今なんて?」

「――な、なんでもないわよ!」

 それからアタシ達はジェットコースターやメリーゴーランドを巡り、一日中遊園地を楽しんだ。

 お化け屋敷やコーラのことには一切触れないまま、船越はアタシの行きたいところ、やりたいことにずっと付き合ってくれた。

 何も言わずに、ただアタシが楽しむ時間だけを……大切にしてくれた。

 うん、やっぱり――アンタを好きになって、よかったよ。

 夕暮れになる頃には遊園地を後にして、レストランで食事を楽しみ、時間の許す限り語り合った。

 刑務所の牢屋で暮らしているアタシにとって、外の世界で好きな人と過ごせる時間というのは、これ以上ないというほど格別だったわ。

 でも、楽しい時間はすぐに過ぎるもの。気がつけば夜の帳も下りて、仮釈放の時間が終わる瞬間が近づこうとしていた。
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